Dr.佐中の腎臓内科第1診察室日誌
江戸川病院
生活習慣病CKDセンター長
メディカルプラザ市川駅
院長

佐中 孜先生

vol.3

この患者Yさんは元来140~150/80~95程度の高血圧があったようで、10年以上にわたって高血圧治療薬の処方は受けています。この間、前立腺肥大症も指摘され、定期検査で血清クレアチニン値が少し高いとの指摘があったとのことですが、蛋白尿も極軽度ですし、自覚症状もないため、かかりつけ医によって処方された高血圧治療薬、前立腺肥大症治療薬の服用以外には検査値を見過ごす日々だったようです。
健康への意識は80歳を目前にした頃から変わり、健康寿命を意識するようになったのか、かかりつけ医から渡された検査結果を生活記録として残すようになったとのことです。そして、1年分の検査値の写しを持って、腎臓内科第一診察室においでになったのでした。
早速、検査値を診させて頂き、eGFRに変換しました(図1)。eGFRは43.9、43.5、38.4、30.8、25.3ml/分と徐々にではあるが、急速に低下傾向を示しているのが分かります。半年で18.6ml/分の速度で低下していますからこのままだと半年以内には透析療法などの腎代替療法が必要になります。患者さんが驚いて、私の外来を受診するも無理からぬことです。早速診察させて頂き、医療連携のなかで、腎障害の悪化阻止を目標としたCKDフォローアップにあたることにしたのです。
その手始めが、蓄尿検査だったというわけです。蓄尿検査は実施を求められることは少ないようですが、とても大切な検査です。いかに大切かは前回述べさせていただいたので、是非ともご参照ください。
陰の声:
eGFRは下記の通りであり、男性用と女性用がある。この計算式のお陰で、腎機能を0から100の範囲に置き換えて、簡単に推測することができるようになった。
例えば、80歳の男性の血清クレアチニン値が1.00mg/dlだった場合、これが1.04mg/dlに上昇したとすると、四捨五入すればこれらの数値はどれも1.0と変化がないことになるが、eGFR変換すると、それぞれ55.2ml/分、52.8ml/分となり、四捨五入しても明確な変化を読み取ることができるのである。血清クレアチニン値はeGFRを求めるまでは不可欠であっても、eGFRを算出後は全く不要な数値であると極論さえ可能である。
実際の所、私などは一度、eGFRを求めるとその数値は記憶していても、血清クレアチン値は忘れさることが多い。それで困ったこともない。
それどころか、eGFRを伝えたその舌の根も乾かないうちに、血清クレアチニン値はいくらですかと質問する御仁には患者さんであれば兎も角も、医療従事者の場合は私の計算間違いを問い詰めたいのか、eGFRの意味を理解していないのかと疑いたくなり、つい語気を荒げることもある。是非ともご確認いただきたい。
この患者さんは私の初診時点で既に病期3bから病期4に入ってしまっているのです。尿蛋白陽性も過去に指摘されていますが、自覚症状もなく、糖尿病についても過去に何度か検査し、否定されてきたとのことで、気にもせず今日に至ったとのことでした。
【図1 Yさんの検査値】
さて、早速、蓄尿をやり直してくださいました。結果は下記でした。
患者Yさんの蓄尿検査結果から皆さんはどんなことを考えましたか?
私は次のようなことが問題点として頭に浮かびました。
  1. この患者さんのクレアチニンクリアランスとeGFRの値が違いすぎる。検査方法に誤りがあるか? あるいはこのような値にさせるようなことが腎に起きているのか?
    それぞれの値に信頼性はあるのか?
  2. 尿量2000ml以上は多尿傾向もあり、夜間尿、頻尿があるのではないか?
  3. 蛋白尿は少ないと言えるので、蛋白尿から判断される重要度は病期から推察される重症度より軽そうなので、末期慢性腎臓病へと悪化するリスクはあるけど、
    対応によっては進行を抑制できるかもしれない。ここには希望がありそうだ。
  4. 食生活は、高血圧症の現病もあり、食塩摂取には気をつけていそうだけど、たんぱく質については無頓着かもしれない。
  5. 過度のカリウム制限は無意識か、意識的かは分からないが、実行していないかもしれない。
  6. 尿酸代謝は気にしなくてよいかもしれないが、排泄量はやや少ないので、注意するにこしたことはないだろう。
  7. そもそも、何故、この患者さんの腎機能は確かに障害されてはいるが、2012年11月頃を境として急に更に悪化したのだろう。
ではこの問題について解説いたしましょう。
【図2 クレアチニンクリアランスとGFRの関係】
①この患者さんのクレアチニンクリアランスとeGFRの値が違いすぎる。検査方法に誤りがあるか?
検査方法に誤りがあるとすると、総べ振り出しに戻るので、ここでは誤りがないと仮定しましょう。
その上で、クレアチニンクリアランスとeGFR、それぞれが何を意味するか理解する必要があります。すなわち、eGFRが文字通り糸球体濾過量(糸球体機能)のみを表しているのに対して、クレアチニンクリアランスは糸球体濾過量(糸球体機能)と尿細管でのクレアチニン分泌量(尿細管機能)を表しています。それ故、クレアチニンクリアランスはeGFRより高値となります。このことを常に思い描いてクレアチニンクリアランス、eGFRを評価する必要があります。
②このような値にさせるようなことが腎に起きているのか?
この患者さんでは尿細管でのクレアチニン分泌能が過剰に働いている、あるいは働かさせられているのかもしれません。クレアチニンの前駆物質であるクレアチンの貯蔵異常、すなわち筋肉異常が起きているのかもしれません。これらは日常臨床では、当日には結論はでないので、解決のための宿題として持ち越すことになるのは止むを得ないでしょう。
③それぞれの値に信頼性はあるのか?
それぞれの値に信頼性に対しては常に疑問視すべきでしょう。しかし、それだけは先に進まないので、用心しながら次に進めることにならざるをえません。

陰の声:
尿は勿論、腎臓で作られる。腎臓の中でも糸球体において最初に尿は作られ、これは原尿と呼ばれる。尿は血漿の水成分であり、この原尿は近位尿細管からヘンレループの下行脚を通って、上行脚を経て遠位尿細管に入り、先天異常のような例外を除いて再び元の糸球体の脇、すなわち傍糸球体装置と呼ばれる糸球体毛細血管の輸入細動脈と輸出細動脈の出入り部(血管極)にまで戻り、その後に集合管に流れ込む。集合管は、複数の遠位尿細管が集合しており、ここにおいて抗利尿ホルモンによって最終調整の形での水分再吸収が行われ、大雑把に言えば、老廃物や余分の電解質を濃縮した形で溶かし込んだ尿が作られる。集合管は腎盂乳頭部に開口しており、尿は腎盂に集められると、最終的には尿管、膀胱と順を追って体外に出される。
皆さんは糸球体と尿細管の関係あるいは、これらそれぞれの役割についてどのように考えてきましたか?2017年10月1日放送のNHKスペシャル「人体」第1集・腎臓(https://www.nhk.or.jp/kenko/special/jintai/sp_3.html)において、山中伸弥先生・タモリさんの司会に加え、オリンピック金メダリストの北島康介 さん、女優・石原さとみさんという豪華メンバーで、まさにこのことをお話になっておられました。是非とも思い出してください。まだご覧になってない方は是非再放映があれば、ご高覧下さい。