Dr.佐中の腎臓内科第1診察室日誌
江戸川病院
生活習慣病CKDセンター長
メディカルプラザ市川駅
院長

佐中 孜先生

vol.1

6月1日
愈々入梅でしょうか。今日は朝から雨。
患者Yさんは少し江戸弁口調が残り、さぞ若い頃には鯔背な捻り鉢巻きが似合っていそうな81歳の男性です。腎機能はeGFR38.4ml/分とCKD病期3のために他院に定期的に通院なさっていたが、友人の紹介で小生の外来を受診するようになった。

患者Yさん
「先生、ヒトが健康に生きて行くために、これだけは欠かさないというと何ですかネ?」
「そりゃあ食べたり飲んだりですよ」そして「大便、小便、寝て、起きても欠かせないね」
患者Yさん
「私のはおしっこを造る所がやられているらしいけど、尿はよく出ていると思いますがね。夜なんか多いですよ。夜のほうが昼間より多いかな。先生に蓄尿しろって言われて気付いたンですがね。尿の色だってきれいですよ。さらさらしています。これで腎臓が悪いってどこがいけないンですかね」「尿道とか膀胱は大丈夫なんですかネ」「ヒトが健康に生きて行くために最小限必要なことは食べたり飲んだりと大便、小便ですかね。大便はわかるけど、小便はどうですか。会議などで小便が憚られるときは水を飲むのをセーブしたりしてますよ。」

など、次々に矢継ぎ早です。あなたならどう答えますか?

1.尿はよく出ますがね。夜のほうが昼間より多いかな。
「良く出ることはいいことです。出なくなったら急性腎不全、尿閉、慢性腎臓病の末期ですよ。でも、実際にどれくらい出ていますか?測ったことないでしょう。なければ、是非、測って見て下さい(尿量計測)。朝夕の体重も量って下さい。」
患者Yさん
「1日尿量は通常どれくらいですか?」
「通常は1500mlから2000ml程度ですが、飲水量が多いと、4000ml前後になることもあります。1300mlより少ないと、脱水になっていたりして、腎臓への血液量が不足していたりするので、要注意です。腎臓の働きが気になるなら、必ず、尿量計測を実行して下さい。そのために尿を溜めておくと、蓄尿検査ができます。」
患者Yさん
「体重測定で尿量は分からないでしょ」
「勿論です。でも浮腫のある人ではある時間でどれくらい(何ml)身体に溜まるかを知ることができます。」
患者Yさん
「尿量は測ったことがないから分かりません。簡単に分かる方法は無いですか?」
「せめて朝、起き抜けに毎日体重を測ってください。1週間以内に増えるなら浮腫が出てきてるかもしれません」
「それから、夜のほうが昼間より多いというのは問題です。腎臓が悪かったり、膀胱、男性なら前立腺も悪かったりしているのです。これらについてはいずれ説明しますが、後で、腎臓を中心にお話しましょう。」
2.先生に蓄尿しろって言われて・・・・。
「そう蓄尿検査は大切です。私は腎臓診療には不可欠だと思っています。」
患者Yさん
「結構、面倒臭そうですね。一体何が分かるんですか」
「まず腎機能です。次はタンパク尿の重症度。さらには蛋白、塩分、カリウム、リンの摂取量を完璧ではありませんが、これらをかなり客観的に知ることが出来ます。」
3.尿の色だってきれいですよ。さらさらしています。これで腎臓が悪いってどこがいけないンですかね。
「これが案外くせ者です。きれいで、さらさらしているというのは濃縮力が障害された尿がでているということを意味しており、CKD病期4とか病期3の初期あるいはそのものである可能性があるということを示唆している可能性があるのです。CKD病期は血清クレアチニン値をもとに計算式から導き出されますが、日々の何気ない排尿かも分かると言うわけです。」
4.尿道とか膀胱は大丈夫なんですかネ
「そう。腎臓が悪いって決めつけないで、尿道や膀胱の異常の有無にも注意して下さい。超音波検査をして水腎症や尿管拡張など尿流異常がないか、膀胱内に残尿が無いか、男性では前立腺に異常は無いかなども調べる必要があります。超音波検査では腎がん、嚢胞腎、腎萎縮などの有無、重症度を知ることが出来ます。腎ドプラー検査で動静脈の血流抵抗も調べて貰うと良いと思います。」
5.ヒトが健康に生きて行くために最小限必要なことは食べたり飲んだりと大便、小便ですかね。
 食べたり飲んだりと大便はわかるけど、小便はどうですか。
「異物、毒物、老廃物など身体にとって不要な物質の捨て場所が尿です。この尿を作るのが腎臓です。身体にとって必要な物質、例えばアルブミン、アミノ酸、グルコースなど一旦、尿中に捨てられてもまた元に戻されます。この働きを演じるのも腎臓です。捨てるという機能を排泄と呼び、元に戻すという機能を再吸収と呼び、尿細管が受け持っています。排泄には更に積極的に尿中に捨てるという機能もあります。これは、分泌と呼ばれ、尿細管で実行されます。排泄、分泌、そして再吸収を組み合わせると、身体の中の状態を一定に保持するという働きに繋がります。ナトリウム、カリウム、カルシウム、リンなどの体液中でも濃度はこのような働きによって一定に維持されています。適切な飲食、適切な排便が生命維持に不可欠だということがお分かり頂けましたね。」
患者Yさん
「次の外来までに蓄尿検査をしておきます」
「お願いします。お大事に」

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