【JSPEN2020】
新型コロナウイルス感染の拡大を受け、令和2年2月27・28日に予定されていた第35回日本臨床栄養代謝学会学術集会の集合型開催は中止されましたが、学術セミナーについては収録が行われました。岡田晋吾先生(医療法人社団守一会 北美原クリニック 理事長)を座長に迎え、学会理事 山中英治先生(若草第一病院)立会いのもと実施された、吉田貞夫先生のご講演の一部をご紹介いたします。

なぜ今、少量高カロリー・低糖質高脂肪栄養補助食品が必要とされるのか?
~注目される脂質の有用性~

吉田 貞夫先生
ちゅうざん病院リハビリテーション科 副院長・金城大学 客員教授

脂質の摂取にはどのようなメリットがあるか
脂質には、肥満のほか、脳血管障害や心筋梗塞につながるというネガティブなイメージがあるかもしれません。しかし、脂質には少量で多くのエネルギーが摂取できる特性があります。また、呼吸商(二酸化炭素排出量/酸素消費量)が低く、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などⅡ型呼吸不全の症例でCO2)の上昇を防げるメリットもあります。
脂質にはさまざまな種類があります。一価不飽和脂肪酸(MUFA)はオリーブ油に多く含まれるオレイン酸などで、適量の摂取は体に良い可能性がある一方、摂取量が多いと冠動脈疾患のリスクが高まる可能性もあります。
多価不飽和脂肪酸(PUFA)は体に有益な脂質として注目されているもので、リノール酸などのオメガ6系のほか、EPAやDHA、α-リノレン酸などのオメガ3系があり、このオメガ3系には抗炎症作用があるとされています。EPAについては、経口摂取不良や体重減少を主訴に入院され、悪性腫瘍の存在が疑われる85歳女性にEPA製剤1,800mg/日を1日2回(朝・夕)に経口投与したところ、体重やアルブミンの減少が抑えられた、という症例を経験しています。
そのほか、近年注目されている脂質に中鎖脂肪酸(MCT)があります。ココナッツオイルにはこの中鎖脂肪酸が60~70%含まれるといわれています。中鎖脂肪酸はグレリンというホルモンの活性をコントロールすることにより、サルコペニア防止や食欲亢進作用などが期待できます。私も、S状結腸がん、関節リウマチ、間質性肺炎を併発する患者さんにリハビリテーション(以下、リハビリ)しながら中鎖脂肪酸を摂取してもらったところ、食欲が改善し、ほぼ寝たきりの患者さんが歩行もできるようになった症例を経験しています。この方は在宅酸素療法を導入し退院となりましたが、以前の状態であれば迎え入れるご家族も介護が大変だったと思います。脂質のおかげで1人の患者さんとそのご家族が幸せになれた、そんな一例ではないかと思います。
ここで、人体における脂質の役割を改めてまとめます。
重要なエネルギー源である
細胞膜の構成要素となっている
炎症を制御する(EPA、DHAなど)
各種のホルモン合成に必要
食欲を改善する(中鎖脂肪酸(MCT))
脂質含有高濃度栄養食品『リピメイン400』を使用した症例

近年、少量でしっかりエネルギーを摂取できる食品が増えてきました。脂質を上手に使った、脂質含有高濃度栄養食品『リピメイン400』(図1)もその1つです。キャップがついているので、SIPフィーディング(チビチビ飲み)にも対応でき、非常に使いやすくなっています。高エネルギー(3.3kcal/g)で、1パック120gで400kcalを摂取できます。脂質のエネルギー比が83%(MCT35%、LCT48%)で、呼吸状態の悪さや疲労感から食事が十分に摂れない方も、少ない量で効率よくエネルギーを摂取できます。従来、カフェオレ風味と枝豆とうふ風味が展開されていましたが、令和2年2月にバナナ風味とコーンスープ風味が加わり、選択の幅が広がりました。
以下、私が『リピメイン400』を使用した症例をご紹介したいと思います。
【1】右橋出血の症例/66歳(男性)
[経過]少量の吐血をして倒れているところをご家族が発見し、救急搬送。軽度の意識障害、右対光反射消失、左不全片麻痺を認め、CTで右橋出血と診断される。呼吸障害を認め、挿管、人工呼吸器管理。その後、気管切開術、胃瘻造設術を施行。
当院には回復期リハビリテーションのため入院されましたが、前医入院中にC.difficile関連腸炎を発症し、転院後も下痢が持続したため、半固形栄養剤を使用しました。下痢は改善したものの多尿傾向となり、脱水が悪化。急性腎不全の併発が疑われました(尿素窒素67.6mg/dL、クレアチニン1.96mg/dL、カリウム5.6mEq/L)。
たんぱく質などの制限が必要となったため、『リピメイン400』を使用。半固形栄養剤を減量して『リピメイン400』を併用し、1,400kcal/日、たんぱく質42.8g/日、カリウム1,600mg/日に調整しました。30日後の経過を見ると、カリウムは正常化(4.0mEq/L)し、クレアチニンも改善(1.52mg/dL)しており、医療療養病床に転院されました。
【2】仙骨部褥瘡の症例/80歳(女性)既往:レビー小体型認知症
[経過]自宅でトイレに行こうとして転倒。右臀部痛が出現し、歩行困難となって救急搬送。X線、CTで、右恥骨・座骨骨折と診断される。転位がわずかで保存的治療を行う方針となったが、前医入院2日目に誤嚥性肺炎を発症し、約1週間抗菌薬投与を行って改善。回復期リハビリテーションのため当院に入院された。
入院時、非常にやせており(BMI15.3kg/m2)、食事介助が必要、食事摂取量にムラがありました(1,300~1,500kcal/日程度)。食形態は「やわらか一口大」でしたが、嚥下機能の低下があり、水分にはトロミが必要でした。栄養状態も非常に悪かったです(血清アルブミン2.5g/dL、ヘモグロビン10.3g/dL、CRP 0.9mg/dL)。入院1カ月後に誤嚥性肺炎を発症し、食事を「しっとりキザミ」に変更しました。
転院時よりあった仙骨部の褥瘡が入院後に増悪し、ポケットを形成しました。そのため、ポケットを切開して治療を行いました。栄養状態の改善も図り、食事に『リピメイン400』を併用。食事介助スタッフの力もあって2,000kcal/日、たんぱく質66g/日程度の摂取が可能になりました。その結果、褥瘡が改善し、体重、BMIも増加して、医療療養病床に転院されました。
【3】右大腿骨頸部骨折術後、2型糖尿病、CKDの症例/77歳(女性)既往:脳梗塞(右前頭葉、小脳)、高血圧症、うっ血性心不全
[経過]自宅でトイレに行こうとして転倒。右股関節痛が出現し歩行困難となっているところを、デイサービスの送迎者が発見し救急搬送。X線で、右大腿骨頸部骨折と診断される。血糖コントロール不良のため内服を調整し、血糖安定後に観血的固定術を施行。

入院時は空腹時血糖208 mg/dL、HbA1c 8.3%、食事は1,200kcal/日。1カ月後は改善傾向(空腹時血糖204mg/dL、HbA1c 8.1%)でしたが、2カ月後に増悪(空腹時血糖244mg/dL、HbA1c 9.7%)しました。グリメピリド1mg/日に加え、メトホルミン500mg/日、ビルダグリプチン100mg/日を追加しましたが改善が見られませんでした。
そこで摂取カロリーを維持(1,200kcal/日)したまま、おかゆなど食事中の糖質を『リピメイン400』に置き換えたところ、食前⇒食後の血糖値の上昇が緩やかになり、変動の幅も抑制傾向となりました。今後も服薬と『リピメイン400』使用を継続することを勧め、退院となりました。

【4】右視床出血、左腓骨骨折術後、2型糖尿病、CKDの症例/72歳(男性)
[経過]突然、呂律難と左片麻痺が出現し、救急搬送。CTで右視床出血と診断され、血圧管理などの保存的治療を行う方針となる。前医に入院1カ月後、トイレに行こうとして転倒、右腓骨遠位端骨折と診断され、ギプスで固定。回復期リハビリテーションのために当院に転院。
入院時、HbA1c 6.9%と低値でしたが、空腹時血糖は99~231mg/dLと変動が大きかったため、スライディングスケールを併用。食事は1,600kcal/日としました。入院1カ月後、空腹時血糖は150mg/dLを超えなくなり、スライディングスケールを終了。活動量が増加し空腹感の訴えもあったため、『リピメイン400』で400kcal/日を追加しました。
血糖コントロールの悪化はなく、リハビリにも積極的に取り組んで独歩可能、ADLも自立に。骨格筋指数(SMI)も増加(7.0kg/m2⇒7.3kg/m2)し、今後退院を予定しています。
安定期COPD患者の体重増加・維持にも有効
坂出市立病院では安定期COPD患者さんにも『リピメイン400』を使用されています。栄養管理科の国方ちあき先生より資料をご提供いただきましたので、ご紹介いたします。
これは安定期COPD患者さんを対象に高脂質高濃度栄養食を用いた栄養療法と、運動療法の併用が栄養状態などに与える影響について検討したもので、呼吸器内科外来に通院中の患者さん13名にご協力いただき、脱落4名を除いた9名の解析を行っています。
栄養療法では『リピメイン400』を1袋/日、Med-Passとして摂取してもらい、4週間ごとに栄養指導と体組成評価(InBody770)を実施。運動療法では週1回40分、外来リハビリテーションで有酸素運動、レジスタンス運動、呼吸筋体操を行ってもらいました。
結果、12週後、9例とも摂取エネルギー量、体重が増加。体重については、109%増加された方もおりました。除脂肪体重を見ると、順調に進んだ症例では108%の増加が認められています。
アドヒアランスが良く継続使用される傾向も
ヘルシーフード(株)からも調査結果の提供を受けています。『リピメイン400』を使用した23の症例を追跡調査し、継続使用が可能だった方は86.9%。うち毎日完食された方が56.5%、完食しない日もあったものの継続された方が30.4%となっています。1日平均使用量(袋)を見ますと、1袋以上が87.0%で、うち1袋の方が78.3%、2~3袋の方もいらっしゃいます。

病院で使用された例を見ると、おおむね体重は増えているか維持できているようです。高齢者施設で使用された例(低栄養リスク分類:中~高、100日以上使用例)を見ると、こちらもおおむね体重が増加か維持できているようです。

摂取期間と体重の状況を見ると、摂取期間が延びればそれに伴って体重も増えている印象があります。中には300日を超えて使用されている方もみられ、『リピメイン400』のアドヒアランスの良さがわかります。(図2)

美味しいものは私たちに元気をくれます。それは患者さんにとっても同じことです。毎日続けていただくものですから、栄養やカロリーを摂取するために我慢して、ではなく、おいしいから続けられる、という形になるのが理想ではないかと思います。ご紹介した私の症例では、カフェオレ風味を牛乳で溶いたりなど、アレンジして毎日おいしく召し上がられている方もいらっしゃいました。体重が減少している患者さんに対して、日々のちょっとした追加や添加で健康を維持していただく工夫を行うことが、これから非常に重要になると思います。

高齢者の方は、ご自身がサルコペニアやフレイルの状態であったとしても気づいていないケースが多いです。また筋肉量が低下されている方が転倒してケガをされ、それがきっかけになってサルコペニアやフレイル状態になることも珍しくありません。ケガをする前から少しずつ『リピメイン400』のようなものを利用して栄養を摂り、筋肉量を維持してイキイキと生活を続けていただくようお伝えしていくことも、私たちの使命ではないかと考えます。

【質疑応答】
山中:ご紹介いただいた症例において、『リピメイン400』は経口で使われたのでしょうか。また経口だった場合、患者さんに抵抗なく飲んでいただくことができたのでしょうか。
吉田:【1】66歳(男性)の症例では胃瘻から摂っていただきましたが、それ以外は皆さん経口です。特に抵抗なく飲んでいただくことができ、味の工夫がなされていることを感じました。
岡田:私は在宅医療で高齢者の方に接するのですが、毎日の食事についてお聞きすると、昔ながらの食生活で糖質が中心になっているケースがよく見受けられます。『リピメイン400』のような高脂肪高カロリー食品の重要性は今後かなり高まってくるのではないかと感じます。COPDの患者さんだけではなく、一般的な高齢者の方にも向いているのではないかと思うのですが、先生のお考えをお聞かせください。

吉田:高齢者の方は特に、食事は糖質が中心とお考えになりがちですが、これからはたんぱく質も必要ですし、効率よくエネルギーを摂取するためには脂質も上手に摂っていただきたい。また、サルコペニア防止につながるグレリンの活性コントロールについて考えると、脂質の中でも中鎖脂肪酸はぜひ積極的に摂っていただきたいと思います。