患者・利用者支援~現場で生かせるコツ~
地域づくりの「当事者意識」をもって、
患者や利用者の生活にも関心をもち、
向き合ってほしいと思います。
地域栄養ケアPEACH厚木 代表
江頭 文江先生
はじめに
平成28年4月、栄養指導の対象に、がん、摂食嚥下障害、低栄養が加わりました。入院中にみていた方が退院後、外来でのフォローや通院困難な場合には在宅でのフォローができるようになり、制度上で栄養指導がつながりました。訪問栄養指導利用者の多くは、なんらかの入院歴があり、退院指導や栄養指導を受けています。
しかし、稀に摂食嚥下障害の栄養指導では、病院の嚥下調整食の説明になってしまっていたり、食形態ではなく、栄養摂取についてのみの指導になってしまっていたりと、退院後もスムーズに在宅生活に移行できない場合もあるようです。また、栄養指導をする際に、キーパーソンが見えにくい場合もあります。食支援は生活支援であり、栄養指導では、退院後の生活や環境についての情報を得て、食事療法の具体的な情報を提供する必要があります。

栄養指導もカンファレンスも限られた時間の中で、対話や議論をします。相手は他職種だったり、患者や家族だったりしますが、どうしたら効率よく相手に伝えることができるでしょうか。専門的な知識を得る機会は増えていますが、その知識をどのように現場で活用するか、ここの部分の教育の仕組みはまだまだ不足しているように思います。これは管理栄養士・栄養士に限らず、どの職場でも共通です。

コミュニケーショントレーニング
実は、何かを伝える場面は日常の中で、多く存在します。職場では、栄養指導やカンファレンスのほかに、病棟訪問、厨房とのミーティング、栄養科内の申し送り、さまざまな会議、プライベートでは、家族との諸要件を伝える会話、PTAや学校行事での会議、自治会などの会議、ボランティア活動や運営委員会での場面です。相手にわかりやすく、短時間で要点を伝える、これらには、書類の作成能力も重要になります。それぞれの場面で、対象者が異なるため、意識していると実はとても良いコミュニケーショントレーニングになると思っています。
大切なことは、こういった場面に自ら参加するということです。病棟にも会議に出席しなければ、コミュニケーションの成功も失敗も経験できません。いまは、電子カルテになっており、病棟に行かずとも情報はとれます。情報共有の面ではとてもよいのですが、以前給食管理でデスクワークに追われていたように、電子カルテの情報を得るために、パソコンの前に貼りついていて、患者訪問の時間が少ない、などということになってしまっていないでしょうか。訪問栄養指導でご自宅に伺うと、まず入ってくる情報は、病歴や栄養課題ではなく、そのひとの生活や思想、環境などです。どんなに専門的な話をしても、それらの情報を無視しては相手には全く伝わらないと感じます。
カルテから、ひとを診る!
私の病院栄養士時代は、電子カルテではなく、紙のカルテでした。看護師が記録していない時間を狙って病棟に行き、カルテをめくりながら患者情報を確認したものです。ナースステーションには医師や看護師もいるため、わからないことがあればその場で確認することができました。今では当たり前になっているミールラウンドも、当時はようやくルーチン化した時期で、最初は毎日病室訪問するところから始まり、次第にカルテ情報を確認しながら多くの患者といろいろな話をするようになりました。
今は電子カルテになり、簡単に情報は共有できるようになりましたが、そこから「ひと」としての患者はみえているだろうかと疑問に思うときがあります。身体計測値から、その体形はイメージできていますか?医師の診療録や看護記録から、治療経過とともに、患者の考えていることや家族との関係等はみえていますか?

ミールラウンドではどこをみるか
病棟訪問には、食事時間と食事以外の時間の訪問があります。ラウンドする前に、押さえておきたい情報には、基礎疾患や既往歴、検査データ、発熱や炎症の有無、排泄状況、前日(食)までの食事摂取量、摂取状況などがあります。急性期病院などで日々改善していく患者もいれば、そのペースが異なる患者、なかなか改善に向かわない患者など、その状況は異なります。
ラウンドで「食事は食べられていますか?」「お口に合いますか?」などと声をかけたりしますが、慣れなければ、食事の配膳など病棟の動きに馴染みながら、患者と話すきっかけを掴んでもいいかと思います。もちろん嗜好を聞くばかりではなく、栄養指導の延長としての食事指導や食形態の適正評価、食欲不振時の聞き取りや対応など、ラウンド中にやるべきことはたくさんあります。
毎日の訪問で、食事摂取や栄養状態の課題の有無やその予後予測により、集団を複数の群に分け、必要な患者にはタイムリーに関わる必要があります。食堂などでは複数の患者をみて回れることができ、居室の訪問が多ければそれだけ個別対応に時間がかかります。
食事時間は限られていますので、複数の病棟があれば、効率よくラウンドするために、どこをどのように回るかということも重要です。そのためにはしっかりと事前に患者情報を把握して、ラウンドスケジュールを組んでおく必要があります。ラウンド中では、病棟内に看護師やリハビリ職などがいることが多く、課題が見つかればできるだけその場で話題にし、早期に対応したいものです。
ラウンドからみえる課題
摂食嚥下機能が低下した患者は、特に食事時間の訪問が重要です。「食べられない」といっても、どこに食べられない要因があるか、は実際に食べているところをみてみないとわからないものです。機能的な問題だけでなく、認知機能や精神疾患など別の要因がある場合もあります。
一方で、NSTや褥瘡、摂食嚥下など多くの多職種チームが動くようになっている今、栄養問題は抱えず、一見問題がない患者は、十分介入なく過ごしてしまいます。かつ、在院日数も短くなっており、十分関われず退院していく患者も多いことでしょう。しかし、そのなかには介入を必要としているケースもあります。
例えば、大腿骨骨折で入院しているAさん。咀嚼や嚥下機能には特に問題がないのですが、義歯の利用がなく、歯牙がないという理由からか、ペースト食の食事が提供されていました。栄養状態には問題がなく、NSTの介入もありません。当然、摂食嚥下的介入もなく、すべて病棟判断でした。ここで、管理栄養士が病棟訪問し、食形態の適正について気づき、再度病棟看護師や医師と調整し、全粥・軟菜の食形態に変更することができました。本人が訴えず、周囲が気づかなければ、ずっとこの患者はミキサー食となってしまいます。
電子カルテ上では、この患者は栄養状態に問題がないため、なかなかスクリーニングにも挙がってきません。しかし、ミールラウンドをしていて、初めて気づく場面に遭遇する場合があります。
集団性と個別性
給食管理(=集団給食)の視点では、食種を一般食と病態食(特別食)、食形態と分け、ある程度患者をグルーピング化します。食種の視点からは、集団的に患者をみがちです。一方で、栄養管理は個々により異なるため、食事は100人いたら100通りの食事としたいところですが、それでは厨房は疲弊してしまいます。ある程度食種を整え、給食マネジメントをしながら、個別の栄養管理につなげる、という視点が必要になります。実は、この視点が他職種にはない栄養士独特の視点ではないかと思います。
ミールラウンドでの対応も、この集団性と個別性の両方の視点をもって、判断していく力も必要とされます。栄養管理はわかるけれど、給食管理には携わっていないからわからない、サイクルメニュー化されているにも関わらず、次の日のメニューを答えられない、などということにはならないように、給食部門とも連携をとりながらしっかりと準備をしていきたいものです。

当事者意識をもつ
「地域包括ケアシステム」について、全国の市町村で、自分の地域特性を勘案しながら、どのように地域づくりをしていくのか、議論されています。多職種連携の「多職種」とは、どこまでが含まれるのでしょうか。
地域には、病院や診療所、老健や特養などの介護保険施設、障がい者支援施設、企業や店舗、学校や保育園、自治会や民生委員、地域福祉のボランティア団体などがあります。こういった会議では、これらの地域財産をどのようにつなげるか、という視点で議論がなされますが、また少し違う視点からみてみると、これらの活動をしている人々が、地域づくりの「当事者意識」をもって、活動することで、お互いが自然につながることができます。管理栄養士も、病院や施設に関わっているときだけをみる、のではなく、もっとその前後の生活にも関心をもち、患者や利用者と向き合ってほしいと思います。
おわりに
平成30年4月は、診療報酬、介護報酬の同時改正となりました。診療報酬・介護報酬共に、「栄養」に関する項目は増えており、非常に関心が高いということが分かります。病院・施設・地域(フリーランス)の管理栄養士は、それぞれの立場でしっかりと関わり、このチャンスを生かしたいものです。
病院栄養士を経て、地域活動を始めて、ちょうど20年になります。「訪問栄養指導をやりたい」といって、待っていても、本当に必要な方にはつながりません。地域活動と同時に、病院や施設の同職種および他職種連携が重要だと本当に感じます。他職種や地域の動きに乗り遅れないように、病院、施設、在宅のバトン渡しがスムーズにできるように、今自分たちの置かれている環境を振り返り、共に前進したいと思います。

江頭文江先生の著書
  • 在宅生活を支える! これからの新しい嚥下食レシピ
    (株式会社三輪書店)
    地域に密着し、赤ちゃんから高齢者まで豊富な訪問栄養指導の経験を持つ著者が贈る、これからの新しい嚥下食レシピ集です。
    「入院前までは普通食を食べていたのに、入院したらミキサー食になってしまった」 「食べる時間が1時間もかかってしまう」 「食事中に激しくむせてしまう」 「調理時間の短縮方法を知りたい」 「お肉を安全に食べさせたい」・・・など、在宅で食べることに困っている方のこんな想いと疑問にすべて応えます!安心して食べるための基礎知識、みんなが聞きたいQ&A、そして在宅ならではの調理の裏技も満載!医療職、介護職、そしてご家族の方にも必読の1冊です。

  • おうちで食べる! 飲み込みが困難な人のための食事づくりQ&A
    (株式会社三輪書店)
    『おいしく食べたい!』 どんなに重度であっても、おいしく食べていただくための嚥下食作りのコツ!
    本書は、重度な嚥下障害者を対象とし、実際の訪問の場で「おいしくて」「安全な」嚥下食を追求してきたその実践的内容をまとめました。重度の嚥下障害者では諦めてしまうことも多かったお餅やラーメン、さらには天ぷらまでおいしく食べるためのコツが満載。
    調理時のミキサーのかけ方や食材の特徴、とろみを使用する際のアドバイスや、使いやすい調理器具の紹介などが、豊富な写真やイラストを用いて、懇切丁寧にわかりやすく解説されています。