栄養管理への関心が高まる
今だからこそ、
「栄養の専門家」の
誇りを持って飛躍してほしい
コメディカルスタッフとして栄養士が進むべき道 vol.2
社会医療法人 近森会 栄養サポートセンター
臨床栄養部 部長
栄養サポートセンター長 NSTディレクター
美作大学大学院 臨床教授
宮澤 靖先生

日本の医療にNST(Nutrition Support Team=栄養サポートチーム)を広めた立役者である宮澤先生。インタビュー第2回目となる今回は、栄養管理やNSTを医療施設で浸透させるためのポイントや、管理栄養士として治療の現場に立つやりがいを、ご自身の経験を踏まえて語っていただきました。また、コメディカルスタッフとしての管理栄養士にはどのようなスキルや姿勢が求められるか、アドバイスをいただきました。

「栄養管理の必要性の共有」から着手
先生が近森病院にNSTを立ち上げたのは2003年のこと。チーム運営や研修体制が確立した現在、全国の医療施設からスタッフが見学に訪れるそうです。
「そんな時よく聞こえてくるのが、“NSTをつくったものの治療成果が見られない”“NSTとそれ以外の医療職との間で、栄養管理への理解度に差がある”といった悩み。そこで、“NSTの発足時に、栄養管理の重要性をすべてのスタッフで共有しましたか?”と訊ねると、“していない”という答えが実に多い。必要性を感じられていないものが浸透するはずがありません」
先生自身、近森病院でNSTをスタートさせる前に力を尽くしたのが「栄養管理は必要、という意識を全スタッフで共有すること」だったと言います。
「病院のほとんどのスタッフが栄養管理について無関心。近森病院に入職してから1年以上かけて、数百人に及ぶスタッフすべてに、治療における栄養管理の重要性や、それをチーム体制で効果的に行うNSTというシステムがあることを伝えていったんです」
同時に先生は治療現場に積極的に加わり、栄養管理について医師に提言する機会を重ねました。
「チーム医療の一員であり栄養面で医師のサポーター役を担うという位置づけを確立しなければ、いざNSTができたとしても、医師や他のコメディカルスタッフから頼られる存在にはなりません。ですから、管理栄養士がチーム医療に加われば治療成績が上がると証明し、周囲の信頼を獲得することをまず目指しました」
こうした取り組みの結果、NST発足の際には病院の全スタッフが栄養管理の必要性やNSTの使命を理解しており、その後のスムーズなNST運営につながった、と先生は当時を振り返りました。
これからの管理栄養士に期待されることとは
治療の現場に立つことには「患者さんが回復される様子に立ち会える」というやりがいがある、と先生は言います。
「それに、治療を担当したチームの輪に加わって、患者さんの回復を皆で喜び合うこともできる。退院日が決まった患者さんに病棟でお会いした折には“今までありがとうございました”と声をかけていただくこともある。これは、厨房に閉じこもって仕事をしていた時には味わえなかった喜びです」
では、コメディカルスタッフとして治療現場で活躍するために、どのようなスキルを身につけるべきか。大きく分けて2つある、と先生は語ります。
1つ目は、医学の基礎的な知識。もちろん、医師が持つような高度な医学知識を求めているわけではありません。人体の仕組みや、どのような要因からその病気になり、体にどのような変化が生じるのか、といった医療従事者なら誰でも知っているような知識を把握しておいてほしいのです」
「そしてもう1つは“患者さん目線”。例えば胃潰瘍で絶食している方がいて、検査後に食事の再開を医師から許可されたとします。それが14時だったら、“昼食の時間を過ぎていて食事が残っていない”という厨房の事情で、多くの医療施設では夕食から食事を提供するのではないかと思います。でも、それでは患者さん目線の治療を提供していることにはならない。ようやく許可されたのだから、少しでも早く食事をしたいのが人情でしょう。それに早く食事を提供すれば、その分、早く回復することにつながる。このように、自分たちの都合ではなく、患者さんの気持ちに寄り添って栄養管理を行う姿勢を大切にしてほしいと思います」
とは言え、特に食事の提供については、状況を改善しようとしても管理栄養士一人の力では難しいこともあります。また、協力し合う栄養士仲間がいない、いわゆる「一人職場」の場合もあるでしょう。そういう環境にいるならば、周辺病院の栄養士と横のつながりを持って情報交換や勉強会を行って知識を蓄積し、同時に職場のチーム医療に加わって栄養管理の実績を挙げながら、状況を変えるべく少しずつ働きかけを行う方法もあるのでは、と先生はアドバイスしてくれました。
栄養管理への関心が高まる今がチャンス
講演活動も積極的に展開されている先生。これまで関わりのなかった学会からも依頼を受けるなど、現在、臨床栄養管理に対する関心がこれまでになく高まっていると感じているそうです。
「管理栄養士にとっては、コメディカルスタッフとして治療現場に立ち、自分の専門性やスキルを役立てるチャンスだと思います。この機会をいかに活かすかは、まさに自分次第です」
安定しており長く続けられる仕事としてこの職種を選んだ方も多いことでしょう。しかし、せっかく「栄養の専門家」になったのだから、自分の力を存分に発揮して治療に貢献し、充実した毎日を送ってほしい、と先生は後進にエールを送ります。
“患者さんにより良い治療を提供したい”という意識があればモチベーションも高まるし、仕事がこれまで以上にやりがいある、楽しいものになると思います。まずは、これまで当たり前のことと受け止めてきた仕事の中の慣習やルールに疑問を持つことから始めてほしい。そして“より良くするために自分に何ができるか”と考えることで、新たな風を呼び込むきっかけが生まれるかもしれません」
医師からの指示を効果的な栄養管理としてカタチにするために、自分の裁量で献立を考えたり栄養剤を選択できる管理栄養士という仕事はとてもクリエイティブ、と先生は言います。
「日本における臨床栄養管理は草創期を過ぎ、これからはより“質”が問われる時代を迎えることでしょう。だからこそ、自身の力や創造性を発揮した時の手応えややりがいも大きくなると思います。時には苦労することもあるかもしれませんが、アグレッシブに挑戦する姿勢を持ち続け、栄養士という仕事の面白さ・奥深さを思い切り堪能していただきたいですね」