慢性腎臓病の栄養指導
診療行為である以上、
“治療効果を得る”ことが栄養指導の基本。
昭和大学病院栄養科
科長補佐

菅野 丈夫先生
1.栄養指導の基本的な考え方
“栄養指導”とはいったい何をすることでしょうか。皆さん考えてみたことはありますか。“患者さんに食事療法の指導をすること”と答える方が多いと思いますが、それだけでは十分ではありません。“患者さんに食事療法の指導を行い、治療効果を得ること”が栄養指導です。栄養指導は、栄養食事指導料として診療報酬が認められたれっきとした診療行為です。診療行為である以上、指導した結果何らかの効果が得られなければなりません。慢性腎臓病であれば、進行の抑制、尿蛋白量の減少、高血圧や浮腫の改善に始まり、腎不全に至っては高窒素血症、代謝性アシドーシス、血清電解質異常、腎性貧血などの改善がそれにあたります。したがって、“指導をした”というだけでは栄養指導を行ったということにはならず、“指導をした結果患者さんがよくなった”となってはじめて栄養指導を行ったということになるのです。
まず、栄養指導を行うにあたっては、まずこのような基本的な考え方(認識)がきわめて重要です。
2.食事療法の特徴と条件
栄養指導の中心は、患者さんが食事療法という治療法を実行し治療効果をあげられるよう指導しサポートすることですので、その特徴や条件を知っておかなければなりません。
食事療法の特徴と条件は次のようにまとめることができます。

食事療法の特徴
1. 患者が自宅で実施する治療であり、日常生活そのものが治療である。
2.患者自身がすべてを実施する治療である。
だから、
3.患者に十分な理解が必要。
4.患者に高度な知識が必要。
5.患者に緻密で正確な技法が必要。
6.応用力 [変化・冒険・遊び] が必要。
そして
7.嗜好、習慣、人生観などが著しく関与する。
食事療法の条件
1. 正確であること。
2. 理解されていること。
3. 治療効果があがっていること。
4. 栄養障害を来たしていないこと。
5. 連日可能であり、かつ長期継続できること。
6. 嗜好が満たされていること。
7. 美味しく楽しいこと。

(元 昭和大学病院藤が丘病院客員教授 出浦照國先生 一部改変)

これらのことを十分考慮したうえで指導をおこなうことが重要です。

3.慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)の基礎知識
栄養指導の中心は、患者さんが食事療法という治療法を実行し治療効果をあげられるよう指導しサポートすることですので、その特徴や条件を知っておかなければなりません。

[(1) CKDとは]
CKDは次の要件を満たした状態を指しています。
①尿異常,画像診断,血液,病理で腎障害の存在が明らか。特に蛋白尿の存在が重要。
②糸球体濾過量(glomerular filtration rate:GFR)<60 mL/分/1.73 ㎡
①②のいずれか,または両方が3か月以上持続する。
(日本腎臓学会編: CKD診療ガイド2012より)

このように、まず尿や腹部エコーなどによる画像診断、血液検査などで明らかな腎障害が存在する場合と、腎機能の指標であるGFRが60 mL/分/1.73m2未満(腎機能60%未満に相当)の場合のいずれか一方、または両方が3か月以上持続する場合にCKDと診断できるとしています。
したがってCKDでは原疾患を問いません。

[(2) CKDの重症度分類]
CKDは、腎機能と尿蛋白量(糖尿病性腎症では尿アルブミン量)によって、重症度が分類されています。(表1)
[(3) CKDの原疾患]
CKDと一口に言っても実際にはたくさんの種類(原疾患)があり(表2)、それぞれに特徴があります。指導対象の患者さんがどの疾患かを把握することはとても大切です。
表1 CKDの重症度分類
表2 主な腎臓の病気(原疾患)

4.CKDの食事療法の考え方
[(1) CKDにおける食事療法の目的]
CKDにおける食事療法は、たんぱく質の制限、適正なエネルギー摂取、食塩制限を基本に、臨床症状によってカリウムとリンの制限が加わります。そしてその目的は、CKDの進行を抑制し、透析導入を回避または遅延させること。そして、浮腫、代謝性アシドーシス、血清電解質異常、腎性貧血などを抑制または改善し全身状態を良好に維持することです。また、食事療法の実践をとおし自己管理能力を育てることも重要な目的です。
[(2) 食事療法の治療効果]
CKDにおける食事療法の治療効果は表3のようにまとめることができます。
[(3) 腎機能(病期)による食事療法の適応]
日本腎臓学会から、2014年に“慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版”が発表されています(表4)。いわゆるガイドラインです。このガイドラインでは、腎機能(GFR:糸球体濾過量)別に栄養量が設定されていますが、次のように理解することが重要です。
①エネルギー
エネルギーは腎機能に関わらず「患者に適したエネルギー量とする」ということです。すなわち、現在標準体重内にある患者さんはその量が維持できる程度、肥満の患者さんには徐々(1か月あたり1~2kg程度のペース)に減量できる程度の量、ということになります。
適正なエネルギーとなっているかどうかは、体重の変化を観察することが実際的であり、あまり数値にこだわらない方が良いと思います。

②たんぱく質
GFRが60mL/min/1.73㎡以上に保たれている場合には取りすぎを抑えるだけで特別な制限とはせず、それ以下に低下した場合には徐々に制限を強化するという考え方です。

③食塩
高血圧や浮腫の予防と治療のために、腎機能の程度を問わず制限を必要とします。しかし、腎機能の低下によりNaの保持能力が低下し、厳しすぎる制限は時として低Na血症を招く危険性があるため、注意を要します。

④カリウム
GFRが45mL/min/1.73㎡以上の場合には高K血症となることが少ないとの理由からK制限はなしとなっており、それ以下に低下した場合には腎機能に応じてK制限を強化するという考えです。

このように、ガイドラインの数値にあまり固着せず、その数値の意味を理解して指導にあたることが大切です。

表3 CKDの食事療法と治療効果との関係
表4 慢性腎臓病 (CKD)に対する食事療法基準 2014

[(4) 食事療法の実際]
CKD、特に腎不全期における食事療法は、適正なエネルギーの摂取、たんぱく質、食塩、カリウム、リンの制限が基本となります。CKDの食事療法は他の疾患の食事療法に比較し難しいと言われていますが、その理由の1つは多くの栄養素の調節が必要となるからです。
しかし、食品中のたんぱく質と他の栄養素とは正の相関関係にあり(図1)、この特徴を理解すると非常に実行が容易になります。
すなわち、たんぱく質を制限することで、カリウム、リン、食塩の制限が半ば自動的に行われるということです。(食塩制限については別途考慮する必要がありますが)考慮すべきは、たんぱく質制限によって減少するエネルギーをどのように補給するかということだけです。これには主食用の低たんぱく食品が大いに役立ちます。
図2をご覧ください。これは1日のたんぱく質30gの場合の食品構成例です。主食に通常食品を利用した場合、主食からだけで1日のたんぱく質は15g~20g程度となります。そうすると副食に回すたんぱく質が少なくなりすぎて、食事が(献立が)作れなくなってしまいます。仮に無理やり作ったとしても、肉類、魚介類、卵、乳製品などの動物性食品が少なくなりすぎて、動物性たんぱく質比(動たん比)が低くなりその結果食事のアミノ酸スコアが低下します。ご存知のように、アミノ酸スコアが低下した食事では、摂取したたんぱく質を効率よく体たんぱくに合成することができません。特にたんぱく質の量を制限する食事療法では、アミノ酸スコアを100にしておかないと長期にわたった場合栄養障害を招く危険性があります。また、主食の量を減らして主食のたんぱく質を減量させ、それを副食に回すという方法を取った場合、今度はエネルギー不足を招くことになります。
低たんぱく食品は通常食品と比較してたんぱく質が1/10~1/30と少なく、しかもエネルギー量は通常食品とほぼ同じです。そこで主食に低たんぱく食品を利用すると、それによって減少したたんぱく質を副食に回すことができ、食事のアミノ酸スコアを100とすることができ、しかも主食から十分なエネルギー量を確保することも可能となります。
図3に、主食を低たんぱく食品とした朝食メニューの一例を示しました。ご覧のように、通常メニューとあまり変わらない内容でたんぱく制限食が可能となります。しかも、野菜などの茹でこぼしや生果物の禁止などを行わなくてもカリウムが大幅に減少しますし、リンも同様に減少します。
この考え方が栄養指導上もきわめて重要となります。
図1 食品常用量中のたんぱく質と各種栄養素量との相関
図2 たんぱく質30gの場合の食品構成例
図3 主食に低たんぱく食品を使用した朝食例

5.CKDの栄養指導
[(1) 患者さんの把握]
CKDに限らず、栄養指導を行うにあたってまず行うのは患者さんの把握です。患者さんの把握は2つの側面から行います。1つは病態上の問題点、もう1つは食生活上の問題点です。
病態上の問題点は、現病歴や既往歴、家族歴などの病歴、身体所見や検査所見(尿、血液、画像など)などから把握します。したがって、カルテや主治医から情報を集めます。カルテの見方や検査所見の読み方については、成書を参考にするか後述するセミナーを受講するなどしてください。
食生活上の問題点については、当院で使用している“食生活状況調査票”を図4に示しましたので参考にしてください。
[(2) 病態についての説明]
栄養指導を受けられる多くの患者さんは、医師から「腎臓が悪いので栄養士から栄養指導を受けてください」という程度の説明しか受けておらず、どのように悪いのかということを理解していません。それ以前に、腎臓の位置や形状、そしてその働きなどについてさえほとんど知りません。そのような状態の患者さんにいきなり食事療法の話しをしても到底理解することも、受け入れることもできません。
したがって、まず説明すべきは腎の位置と機能、現在の状態(病態)であり、そのうえで食事療法の具体的方法について指導するようにします。当院で使用している説明資料を表5に示しましたので参考にしてください。
図4 食生活状況調査票
表5 病態と食事療法の説明に使用する指導資料

[(3) 1日の分量と献立の考え方]
次に指示栄養量に基づく1日の分量と献立の考え方について指導します。この指導でのポイントは、食生活状況調査で調査した今までの食事内容や食の好みなどを十分考慮に入れ、それをあまり変えずに食事療法を実行する方法について説明することです。
[(4) 食品の計量、食事記録の記載、栄養計算]
(3)の指導で患者さんに大まかな感触を掴んでもらったら、次に指導するのが食品の計量、食事記録の記載、栄養計算の方法についての指導です。腎臓病の食事療法は正確性が非常に重要であり、たんぱく質の誤差が5g程度生じただけでも治療効果に差が出てしまいます。正確な食事療法の実行に欠かせないのがこの3つです。
また、栄養計算にはもう1つの意味があります。それは食品の特徴を患者さん自身に知ってもらうためです。私たち管理栄養士は、同じ野菜でもたんぱく質の多い野菜と少ない野菜があり、それぞれどの野菜であるかを知っています。肉類でも同じで、同じ豚肉でもたんぱく質の多い部位と少ない部位があってそれがどの部位かも知っています。そして、たんぱく質の少ない野菜や肉類なら少し多めでも構わないことも知っています。これと同じ知識を患者さんに知っていただくのです。そうすることによって食品選択の幅が非常に広がるとともに、自在な食事療法の実行が可能となります。
食品の計量、食事記録の記載、栄養計算は、慣れない患者さんにとって時に苦痛を強いることになりますが、慣れればそれが習慣化して苦痛でなくなること、何よりそれを実践することで食事療法自体がやりやすくなることを患者さんに理解して頂き、何としても実行して頂くよう指導します。
[(5) 実行度および治療効果の確認]
実行度の確認は、できれば24時間蓄尿による尿生化学検査(尿中尿素窒素排泄量、尿中Na排泄量など)によって客観的に評価します。よく食事記録によって実行度を評価する方がおりますが、まずは24時間蓄尿による尿生化学検査でたんぱく質摂取量や食塩摂取量を客観的に評価し、それに問題がある場合にその原因を探るために食事記録を見たり、また動たん比を評価するために食事記録を見たりします。
治療効果の確認は、身体所見や検査所見によっておこないますが、それについては成書を参考にしてください。

以上、CKDの栄養指導についてその概要を解説しました。CKDと言っても、原疾患や病期、また臨床症状によって千差万別であり、また、患者さんの年齢、生活背景も同様に千差万別です。したがって栄養指導も、100人のCKD患者さんがいたら100通りの指導方法で対応しなければなりません。究極のテーラーメイド医療です。
CKD患者さんは、わが国においては1,000万人以上いると推定され、そのうち透析目前の腎不全期にある患者さんは20万人以上いると推定されています。すなわち、私たち管理栄養士を必要としている患者さんが数多く存在しているということです。
私たちはそれらの患者さんの期待に応える責務があります。そのために、弛まない努力を続けることが必要です。

私たちは、CKDおよび透析患者さんの栄養指導を実践的に知っていただくことを目的に、全国各地で下記のセミナーを開催しています。
是非ご参加ください。

腎臓病の食事療法-指導法習得実践講座

講師 :
吉村 吾志夫先生(新横浜第一クリニック院長、昭和大学藤が丘病院腎臓内科 客員教授)
菅野 丈夫先生(昭和大学病院栄養科 科長補佐)
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