食品成分表
日本食品標準成分表2020年版(八訂)
主な改訂ポイント
文部科学省より「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」が公表されました。
炭水化物が細分化され、エネルギーの算出方法が変更になるなどの改訂が行われました。
主な改訂ポイントをご紹介します。

1. エネルギー産生成分
エネルギー値を計算する成分を変更し、これまでより実際の摂取量に近い値になりました。
七訂
成分 算出方法
たんぱく質 窒素量×換算係数で算出
脂質 有機溶媒可溶成分の総質量
炭水化物 100g−(他の成分値)で算出
八訂
成分 算出方法
アミノ酸組成による
たんぱく質
たんぱく質を構成する約20種のアミノ酸の残基量の合計から算出
脂肪酸のトリアシルグリセロール当量 脂肪酸をトリアシルグリセロールに換算した総和
消化性
利用可能炭水化物(単糖当量) でん粉、単糖・二糖類を単糖に換算した総和
消化性
食物繊維、糖アルコール
2. エネルギー値算出方法

七訂では修正Atwaterの係数などを食品により選択していましたが、八訂では全食品に対し同じ換算係数を用いて計算します。

七訂(修正Atwater法)
成分名 換算係数(kcal)
たんぱく質 4
脂質 9
炭水化物 4
アルコール 7
八訂
成分名 換算係数(kcal)
たんぱく質 アミノ酸組成によるたんぱく質 4
脂質 脂肪酸のトリアシルグリセロール当量 9
炭水化物 利用可能炭水化物(単糖当量) 3.75
食物繊維総量 2
糖アルコール 2.4
有機酸 3
アルコール 7

可食部100gあたり1g以上含まれることがある一部の糖アルコール及び有機酸については、別に定めた換算係数を利用する。

糖アルコール 換算係数(kcal)
ソルビトール 2.6
マンニトール 1.6
マルチトール 2.1
還元水飴 3.0
有機酸 換算係数(kcal)
酢酸 3.5
乳酸 3.5
クエン酸 2.5
リンゴ酸 2.4

●2,249食品の試算では、計算方法の変更によりエネルギー値は9.1%減少となりました。
食品群別にみると、きのこ類は11.8%・藻類は12.6%増加する結果となっています。

3. 表頭項目
成分表2020年版(八訂)表頭項目
成分の概要
アミノ酸組成によるたんぱく質 たんぱく質を構成する約20種のアミノ酸の残基量の合計から算出。
たんぱく質 基準窒素量に窒素-たんぱく質換算係数を乗じて計算。
脂肪酸のトリアシルグリセロール当量 脂肪酸をトリアシルグリセロールに換算した総和。トリアシルグリセロール(トリグリセリド)は中性脂肪の内自然界に最も多く存在する。
脂質 有機溶媒可溶物を分析で求めた値。
飽和・不飽和脂肪酸 脂肪酸成分表編に記載。
利用可能炭水化物(単糖当量) エネルギーとしての利用性の高いでん粉、単糖・二糖類を単糖に換算した総和。
利用可能炭水化物(質量計) でん粉、糖類を直接分析または推計した値で質量の合計。実際の摂取量。
差し引き法による利用可能炭水化物 100gから水分、たんぱく質、脂質、食物繊維、有機酸、灰分、アルコール等の合計を差し引いて求める。利用可能炭水化物の収載値がない食品等においてエネルギーを計算するために用いる。これをエネルギー計算に用いた場合は「*」を明示している。
食物繊維総量 2015年版追補2018年以降AOAC2011.25法による分析を収載しているが、従来のプロスキー変法やプロスキー法による成分値等については炭水化物別表1に収載。
水溶性・不溶性食物繊維 炭水化物成分表別表1に記載。
糖アルコール 2015年版は炭水化物に含まれる成分だが、利用可能炭水化物との関係ではその外数となる。
有機酸 2015年版までは酢酸のみエネルギー産生成分と位置づけ、その他は便宜的に炭水化物に含めていたが、すべての有機酸をエネルギー産生成分として扱う観点から独立して配列した。
4. その他の改訂ポイント
①調理済み食品に関する情報を充実
「調理加工食品」として一部の冷凍食品として収載していた18類を「調理済み流通食品」に名称を変更し、給食事業者等から収集したレシピから成分値を追加収載
②七訂追補の検討結果を全体に反映
収載食品の増加(2,191品から2,478品)、成分値の変更を反映、成分の一部追加、解説の充実
5. Q&A抜粋 文部科学省 日本食品標準成分表に関するQ&Aから一部抜粋
1-6 令和2年に公表された日本食品標準成分表2020年版(八訂)の改訂のポイントは何ですか?
今回の改訂のポイントは、
①冷凍、チルド、レトルトなどの形態で流通する調理済み食品の充実
②炭水化物の細分化とエネルギー計算方法の変更
③2016年以降公表した追補成分表等の改訂内容の統合・整合化

です。
さらに、「2019年における日本食品標準成分表2015年版(七訂)のデータ更新」公表後に追加された、カップラーメンの汁を飲まない場合の成分値、流通する漬物類の再分析、れた、カップラーメンの汁を飲まない場合の成分値、流通する漬物類の再分析、参照ください。
7-1 アミノ酸組成によるたんぱく質とは何ですか?
たんぱく質は、アミノ酸から構成されています。アミノ酸成分表に収載されているアミノ酸の量から計算により求めたたんぱく質量が「アミノ酸組成によるたんぱるアミノ酸の量から計算により求めたたんぱく質量が「アミノ酸組成によるたんぱく質」です。
(なお、従来の「たんぱく質」は、食品中に含まれる全ての窒素の量を測り、たんぱく質以外の成分に由来する窒素量(硝酸イオン、カフェインなどに由来する窒素)を差し引いて基準窒素量を求め、「窒素-たんぱく質換算係数」という係数を乗じて求めています。)
「八訂成分表」では、アミノ酸組成によるたんぱく質が収載されている食品では、基準窒素による「たんぱく質」ではなく、「アミノ酸組成によるたんぱく質」を用いてエネルギー計算を行っています。
7-2 利用可能炭水化物とは何ですか?
利用可能炭水化物は炭水化物の構成成分のうち、ヒトの消化酵素で消化できるものの総称で、炭水化物成分表では、でん粉、ぶどう糖、果糖、ガラクトース、しょ糖、麦芽糖、乳糖、トレハロース等を収載しています。
利用可能炭水化物(単糖当量)は、エネルギーの計算をより正確にするために、それぞれの利用可能炭水化物に、単糖の量に換算するための換算係数を乗じて、足し上げた値です。例えば、でん粉の場合、でん粉1gが加水分解するとぶどう糖約1.1gが生じるため、エネルギーも1.1倍生じると考えて、換算係数1.10を乗じています。
「八訂成分表」では、利用可能炭水化物が収載されている食品であって、かつ、それぞれの組成成分の成分値の不確かさが一定の範囲にある食品では、「利用可能炭水化物(単糖当量)」を用いてエネルギー計算を行っています。
7-3 「利用可能炭水化物(単糖当量)」とは糖質のことですか?
食品表示基準では、炭水化物量から食物繊維量を差し引いたものを「糖質」と呼びますが、「八訂成分表」では、「糖質」という成分は収載していません。ただし、収載成分である炭水化物から食物繊維を差し引いて食品表示基準上の「糖質」にあたる量を計算することは可能です。
成分表の利用可能炭水化物(単糖当量)は、エネルギーへの換算を容易にするために、消化性の高い炭水化物(=利用可能炭水化物)である、でん粉、ぶどう糖、果糖、しょ糖等の成分値を、単糖に換算後、合計した値です。
7-4 当量とは何ですか?
それぞれの成分が同じような機能をもつ場合でも、同等の効力をもたない場合があります。そのような成分の場合、基準となる成分の相当量として、○○当量というように表します。追補2016年から、ナイアシン当量を新たに収載しましたが、これまでも日本食品標準成分表には、レチノール活性当量、β-カロテン当量等を収載しています。
7-8 七訂追補2018年で食物繊維の分析法を変更したのはなぜですか?
日本食品標準食品成分表の食物繊維については採用している分析法(酵素-重量法の一種であるプロスキー変法)の違いから、食品の国際規格を定めるコーデックス食品委員会の定義、食品表示法で認められている分析法による定量値と異なり、オリゴ糖等の液体クロマトグラフ(HPLC)法により定量される低分子量の水溶性食物繊維等が含まれていないことが指摘されていました。このため、国際的に認められている重量法とHPLC法を組み合わせた分析法(AOAC2011.25法)について、国内食品への適用性の検証を行った上で、七訂追補2018年収載食品からこの分析法による成分値の収載を開始しました。 なお、食物繊維については、従来のプロスキー変法による成分値が栄養摂取量評価に利用されている実態もあることから、利用者が分析法による違いを認識できるよう、炭水化物成分表に別表1として、食物繊維を収載し、AOAC2011.25法による成分値とプロスキー変法による成分値を並べて掲載する対応をしています。この変更の経緯と今後の課題については、七訂追補2018年の資料中での説明のほか、第九期食品成分委員会(第16回)会議資料として公開しています。
8-11 日本食品標準成分表には「糖質」の成分量がありませんがどうしてですか?
炭水化物は、ヒトの酵素で分解・利用されるでん粉や単糖類等の利用可能な成分と、逆にヒトの酵素では分解されない難消化性の食物繊維等に大別されますが、御指摘のとおり、現在の「八訂成分表」では、糖質という成分は規定していません。従来の「炭水化物」から分析により得られる食物繊維を差し引くことで、便宜的にヒトが容易に利用できる炭水化物の量、いわゆる「糖質」に類する成分値を推計することは可能ですが、
①成分表の炭水化物は、100 gから水分、たんぱく質、脂質等を差し引いた「差引き法による炭水化物」であり、これから食物繊維を差し引いて「糖質」を計算すると、他の成分の測定の不確かさが反映されてしまうこと【注:炭水化物-食物繊維がマイナスとなる食品が出現してしまう】、
②国際的に成分表の炭水化物は、単糖類・二糖類にでん粉等を含めた「利用可能炭水化物」と消化性の低い「食物繊維」「糖アルコール」等で構成されるため、それぞれの構成成分の分析値に基づき決定することが推奨されており、我が国においても、炭水化物の組成に関連する、でん粉、糖類、糖アルコール、食物繊維、有機酸等の個別成分を明らかにする炭水化物成分表の充実を図っていること、を勘案して、消化性の高い炭水化物は「利用可能炭水化物」と呼んでいます。
なお、消費者庁では、食品表示法に基づき個々の食品で「糖質」の表現をもって表示する場合の共通的なルールを定めていますので、この点については、同庁のガイドライン等を参照ください。