嚥下機能評価システム:嚥下チェッカー
誤嚥性肺炎患者の増加を救え!
言語聴覚士が、
現場目線で開発にこめた想い。
日本赤十字社 大阪赤十字病院
リハビリテーション科
髙橋浩平先生
医療法人敬愛会 西宮敬愛会病院
リハビリテーション科
金銅誠人先生

INDEX
嚥下チェッカー開発の背景・現状の問題点
高齢化に伴い、食べることに関わる問題「嚥下障害」の患者様へ介入する需要は年々増加しています。嚥下障害は脳卒中やがんの手術・治療後、加齢に伴うものなど様々な原因で引き起こされますが、食事に関わるため一度引き起こすと場合によっては生命に関わる問題となり大変リスクの高いものです。
嚥下障害が生命に関わる問題という説明は少しアバウトで、嚥下障害が原因で起こる誤嚥によって引き起こされる誤嚥性肺炎が、命を奪うリスクがあるという説明がおそらく正しいかと思います。誤嚥とは、食べたものや飲んだものが、何らかの原因によって食道ではなく気道に入ってしまうことをいいます。(図1)
A嚥下障害→B誤嚥→C誤嚥性肺炎
AからCまでが一般的な流れで、特に高齢になればなるほどこのリスクは高まります。言語聴覚士としてこのABCに関わっていて強く感じる事は、とにかく「A」の段階で具体的な策を講じることが重要であるということです。
つまり誤嚥性肺炎にならないためには、嚥下障害を早期に発見・介入する。もっといえば嚥下障害になる前から対策を打つ。いわゆる「予防」に取り組む事が理想的だと考えています。
嚥下障害を早期に発見し適切な評価や対策を講じるためには、言語聴覚士などの専門職の存在が重要となります。ただこの言語聴覚士という資格、全国的にみても有資格者数は約3万4千人程度であり、決して多くはありません(例えば看護師は約120万人)。
また、ただでさえ少ないのにその多くが病院勤務であるため、実際に在宅や施設などの高齢者の嚥下障害に予防的に関わることは難しい現状にあるといえます。
日本における高齢化率は上昇を続けており、2036年には33.3%、つまり3人に1人が65歳以上の高齢者になるといわれています。毎年1500人ほど新たな言語聴覚士が誕生しているようですが、2036年までに現在の状況が好転するとは思えません。
現在の高齢化社会で誤嚥性肺炎を未然に防ぐためには、専門職でない方(場合によっては患者様ご本人やその家族)が嚥下障害に予防的に関わる必要があるでしょう。そのためには摂食嚥下の正しい知識やノウハウを持ち、実行に移す必要があるといえます。
しかし、それは決して簡単なことではありません。
病院に勤務していると、「家族の方がもう少し早く誤嚥の兆候に気づいていればな…」「この施設では言語聴覚士の往診がなかったんだな…」こんなことを常々思いながら、嚥下障害による誤嚥性肺炎の患者様への対応にあたっています。
私たちが言語聴覚士として勤務し始めた7年前からこのコラムを書く今日までこの状況は変わっていません。悪化している印象まで受けます。
なんとかしてこの現状を変えなくてはならない。そんな使命感から専門職でない方に使っていただける嚥下機能評価システム「嚥下チェッカー」(図2)を開発しました。

嚥下チェッカーとは
このサイトは「言語聴覚士のいないすべての場にその知識・ノウハウを」を理念に作成した現場目線の嚥下機能評価システムです。
対象者の食事場面を観察しながら質問項目の該当する部分にチェックするだけで、嚥下に関する考えられる可能性と対策やトレーニングを提示してくれるサイトです。嚥下障害に対する知識が少ない方でも簡単にお使いいただけるよう試行錯誤を重ね完成させました。
使用方法
①まずはTOPページより申し込みフォーム(図3)に移動し手続きいただくことでIDとパスワードを発行いたします。
※「嚥下チェッカー」は無料でお使いいただけます
※ID・パスワードの発行までには数日〜2週間程度いただくことがあります
嚥下チェッカーは個人、法人どちらでも利用が可能です。
個人では在宅介護の現場などで多く使っていただいています。最近は看護師や介護士、歯科衛生士の方からも臨床での知識を付けるという自己学習目的で申し込みいただくようにもなりました。
法人では多くの介護施設や訪問診療を行なっている歯科クリニックにご利用いただいています。患者様の嚥下評価だけでなく、誤嚥予防の自主訓練を指導する際の参考にしていただいているようです。

②ID・パスワードを入力すると管理画面に移動できます。ここではチェックを行なった利用者の情報を閲覧したり再評価が可能です。新規登録ボタンを押していただくと嚥下チェックが開始されます。(図4)

③嚥下チェッカーでは食事場面を5つの段階に分け、計17項目の質問の該当部分にチェックいただくことで、嚥下評価を行います。
摂食嚥下の知識が少ない方でも分かりやすい内容になっており、開始から終了まで3分あれば十分チェック可能です。(図5、6)

「嚥下チェッカー」は食事場面を観察し、リアルタイムでタブレットやスマートフォンからチェックしていただく想定で作成しました。
しかしながら、介護の現場では食事の観察や介助をしながら端末を操作することが困難な場合もあるかと思います。その時は紙媒体でチェックしていただけるよう、チェック用紙(図7)のPDFデータも準備しております。一旦紙ベースで記録していただき、後ほど嚥下チェッカーにてチェックを行なって下さい。

④チェックが終わると結果画面にて対象者の嚥下に関わる考えられる可能性と、対策・トレーニングが一覧で表示されます。(図8)

結果画面では大きく2つのソリューションを提示します。

嚥下機能の維持・向上につながる嚥下体操動画(図9)を20種類以上あるものからセレクトしてくれる
チェック項目から考えられる可能性→解決策を詳細に見ることができる(図10)
時間がないけれど対策・トレーニングが知りたい時は「嚥下体操動画」を
チェックの結果、考えられる問題点と対策を詳しく知りたい時は「解決策の詳細」を
状況によって使い分けていただければと思っております。
ここまでが嚥下チェッカーを用いた(嚥下機能の評価)→(考えられる可能性)→(トレーニング)の流れになります。

最後に
摂食嚥下機能の評価というのは決して簡単なものではなく、詳細な評価には病院での診断が必要となります。嚥下チェッカーだけで嚥下機能評価や訓練がすべて完結するとは思っていません。これは毎日嚥下障害患者を診てきた我々が一番理解しているつもりです。しかし、同時に医療機関の受診が必要な状態となる前に予防することの重要性も強く感じています。そのひとつのツールとして嚥下チェッカーを使用していただけたらと思っています。
当サイトで採用しているチェック項目や対策・トレーニングは言語聴覚士としての臨床経験だけでなく、医師・歯科医師・管理栄養士・看護師・介護福祉士・薬剤師など多くの方々の意見を取り入れ作成しました。
様々な現場でご活躍される管理栄養士の皆様に、NSTカンファレンスやミールラウンド、退院時指導などで役立てていただければ幸いです。
この「嚥下チェッカー」が様々な高齢者や介護が関わる現場で利用され、誤嚥性肺炎の予防につながることを願って今後も様々なサービス追加や普及活動に努力していきたいと思います。
著者プロフィール(執筆当時)
髙橋 浩平 先生
Kouhei Takahashi
所  属/
日本赤十字社 大阪赤十字病院
リハビリテーション科
関連資格/
言語聴覚士

金銅 誠人 先生
Makoto Kondou
所  属/
医療法人敬愛会 西宮敬愛会病院
リハビリテーション科
関連資格/
言語聴覚士
日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士
介護福祉士


講演①
嚥下障害患者を考える~患者の機能を最大限に活かす関わり~
講師/

東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科
医歯学系専攻老化制御学講座
摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授
戸原 玄 先生

講演②
在宅で簡単にできる嚥下調整食
講師/

地域栄養ケアPEACH厚木 代表
江頭 文江 先生

アシスタント/言語聴覚士 髙橋 浩平 先生
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