高齢者の要介護リスク
ロコモ、フレイル、サルコペニアの概要
高齢者の要介護の要因となる、ロコモ、フレイル、サルコペニア。健康寿命延伸のためにこれらの取り組みが進められています。
共通点の多いこの3つについて整理しました。

1.ロコモ
ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome:運動器症候群)の略称。
2007年に日本整形外科学会が運動器の障害による移動機能の低下した状態を表す新しい言葉として提唱した概念です。運動器とは、骨・関節・靱帯、脊椎・脊髄、筋肉・腱、末梢神経など、体を支え、動かす役割をする器官の総称です。ロコモは運動器の機能不全のみならず、要介護リスクが高まった状態をさします。

ロコモ度 ※判定項目にひとつでもあてはまる場合に判定します。

ロコモ度1 ①どちらか一方の片脚で40cmの高さから立ち上がれない
②2ステップ値が1.3未満
③質問票ロコモ25の結果が7点以上
ロコモ度2 ①どちらか一方の片脚で20cmの高さから立ち上がれない
②2ステップ値が1.1未満
③質問票ロコモ25の結果が16点以上

※ロコモチャレンジ推進協議会 公式HP「ロコモオンライン」より

2.フレイル
老年医学の分野で使用される「Frailty(虚弱)」に対する新しい日本語訳と概念として、2014年に日本老年医学会が「フレイルに関するステートメント」を発表しました。
フレイルは、高齢期に生理的予備能力が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡などの転帰に陥りやすい状態で、身体的問題のみならず、認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、独居や経済的困窮などの社会的問題を含む概念です。早期に発見し、適切な介入により生活機能の維持・向上が期待されます。
フレイルの定義や診断基準は統一されていません。

Friedの基準 ※3項目以上該当するとフレイル、1~2項目の場合にはプレフレイルと判断します。

①体重減少

意図しない年間4.5kgまたは5%以上の体重減少

②疲れやすい

何をするのも面倒だと週に3~4日以上感じる

③歩行速度の低下

④握力の低下

⑤身体活動量の低下

Fried LP, et al.: Frailty in older adults: evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 56(3): M146-156, 2001

フレイルの概念

オーラルフレイル

オーラルフレイルは、口に関する”ささいな衰え”が軽視されないように、口腔機能低下、食べる機能の低下、さらには、心身の機能低下まで繋がる”負の連鎖”に警鐘を鳴らした新しい概念で、「老化に伴う様々な口腔の状態(歯数・口腔衛生・口腔機能など)の変化に、口腔健康への関心の低下や心身の予備能力低下も重なり、口腔の脆弱性が増加し、食べる機能障害へ陥り、さらにはフレイルに影響を与え、心身の機能低下にまで繋がる一連の現象及び過程」と定義されました。
日本歯科医師会「歯科診療所におけるオーラルフレイル対応マニュアル2019年版」より
3.サルコペニア
サルコペニアは、ギリシャ語の筋肉「sarx」と喪失「penia」を合わせた造語で、1989年Rosenbergにより提唱されました。2010年にEWGSOP(European Working Group on Sarcopenia in Older People)が、サルコペニアは進行性および全身性に認められる骨格筋量および骨格筋力の低下であり、身体的障害やQOL低下、死のリスクを伴う老年性症候群と定義しました。
2014年にAWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)がアジア人向けの診断基準を提唱しました。7つの研究グループがあり、診断基準が異なりますが、日本においてはAWGSの診断基準が推奨されます。AWGSは、2019年10月、握力、歩行速度の値が改定され、一般の診療所や地域での評価が追加されました。2016年にICD-10(国際疾病分類)に登録され、疾患として認識されました。

AWGS2019によるサルコペニアの診断基準
 【一般の診療所や地域での評価】 ※①または②に該当するとサルコペニアの可能性と診断

症例の抽出

下腿周囲長(CC) 男性:34cm未満 女性:33cm未満
SARC-F 4点以上 SARC-CalF 11点以上

①筋力の低下

握力 男性:28kg未満 女性:18kg未満

②身体機能の低下

5回椅子立ち上がりテスト 12秒以上

 【医療施設や研究を目的とした評価】
      ※①に加えて、②③いずれかに該当するとサルコペニアと診断、両方に該当すると重度サルコペニアと診断

症例の抽出

身体機能低下または制限、意図しない体重減少
抑うつ気分、認知機能障害
繰り返す転倒、栄養障害
慢性疾患(例:心不全、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、糖尿病、慢性腎臓病、等)
下腿周囲長(CC) 男性:34cm未満 女性:33cm未満
SARC-F 4点以上 SARC-CalF 11点以上

①骨格筋量の低下

男性:7.0kg/㎡未満 女性:5.7kg/㎡未満(BIA)、5.4kg/㎡未満(DXA)

②筋力の低下

握力 男性:28kg未満 女性:18kg未満

③身体能力の低下

6m歩行速度:1.0m/秒以下
または5回椅子立ち上がりテスト 12秒以上
またはSPPB 9点以下

BIA:bioelectric impedance analysis DXA:dual energy X-ray absorptiometry
Chen LK, et al. J Am Med Dir Assoc, in press

サルコペニア肥満

サルコペニアと肥満もしくは体脂肪の増加を同時に有する状態ですが、確立された定義や診断基準はありません。

サルコペニアと摂食嚥下障害

サルコペニアと摂食嚥下障害に関するエビデンスの構築を目的として、2019年に日本摂食嚥下リハビリテーション学会、日本サルコペニア・フレイル学会、日本リハビリテーション栄養学会、日本嚥下医学会の4学会合同ポジションペーパーが発表されました。

「低栄養とリハビリテーション」