【ヘルシーフードショー2018】
平成30年4月7日、東京都立産業貿易センター台東館にて、「2018ヘルシーフードショー」が開催されました。その中で、日本在宅栄養管理学会理事を務め、緑風荘病院栄養室で栄養食事指導にも取り組んでいる西村一弘先生がご講演を行われました。ここでは、その一部をご紹介いたします。
●糖尿病の食事療法

テーラーメイドの栄養食事指導について

西村 一弘先生
駒沢女子大学 人間健康学部健康栄養学科 教授

栄養士だからできる「栄養食事指導」にこだわってほしい
糖尿病の歴史を振り返ると、日本では、藤原道長が糖尿病合併症を思わせる症状を示したという1027年の記録が残っています。治療面では、1869年にランゲルハンス島が発見され、1889年に膵臓が糖尿病の原因と証明されました。1921年にインスリンが発見され、1979年に遺伝子組み換え技術により人インスリンが完成、1980年代になるとインスリンの大量生産により多くの人が糖尿病治療を受けられるようになりました。2003年にはインスリンアナログにより作用時間を調節できるようになり、治療が画期的に変化しました。
一方、食事療法の歴史を見ると、インスリン発見以前は厳しい糖質制限が必要でした。インスリンが発見され、日本では昭和40年から糖尿病食品交換表が使用されるようになります。平成25年11月に発行された最新版(第7版)の食品交換表は、カーボカウント等にも対応するものとして編集されています。
現在は食事指導の方法も増え、色々な媒体があります。カウンセリングやコーチングは、患者さん個々の病状に合わせた対応として重要と言われています。栄養士が栄養指導する場合、栄養面だけでなく、食品の選び方や調理上の工夫など、食事面に関しても患者さんにしっかり教える、「栄養食事指導」にぜひこだわっていただきたいと思います。
「自分の体内で何が起きているのか」を患者さんに理解していただく

食事療法はまず、患者さんにその方自身の病態を十分に理解していただくことから始まります。食べ物や飲み物がどのように消化され、吸収されて、その中で糖質はどのような動きをするか、そしてその方の場合どこにどのような異常が起きているのか。高血糖についても、食直後に生じているのか、空腹時から既に起きているのかで治療法が異なります。

その方のインスリン分泌のパターンや血糖値の状況をグラフなどで視覚的に表すことも、理解を深めていただくためには重要です。
特に2型糖尿病初期の場合、食直後にインスリンがなかなか分泌されないため血糖値が上昇し、結果、大量のインスリンを使って血糖値を下げなければならなくなります。こうした病態を示して、現状の食べ方を続けると膵臓が疲れてインスリンが総体的に不足し、食前血糖値も上がるようになりますよと話をします。
間食についても、患者さんの病態に合わせて話をする必要があります。2型糖尿病の方で、インスリンの初期反応が悪い方の場合、食後時間が経ってようやく血糖値が下がったところで間食を摂ると、また高血糖になります。こうしたことをきちんと説明しないと、なぜ間食が自分に良くないのかが患者さんは理解できません。ただ単に、1日何単位までならいい、というのではなく、「間食をしたいならあなたの場合はこのタイミングで」と、その患者さんの病態を踏まえて指導する必要があります。
アルツハイマー型認知症が急増していますが、その背景に糖尿病があることが明確になっています。アルツハイマー型認知症の原因の一つとなっているのがアミロイドβというたんぱく質で、インスリンによって分解されるものです。糖尿病の患者さんはインスリンを体のいろいろなところで使ってしまいます。本来ならば脳でアミロイドβを分解してくれるインスリンが足りずにアミロイドβの沈着が起こり、その結果、アルツハイマー型認知症につながることが研究で解明されています。こうしたことを患者さんに伝えることも、治療に取り組むモチベーションにつながります。
「糖質は本当に悪者なのか?」を考える
現在、日本では炭水化物や糖質の摂取量は減っていますが、糖尿病患者数が減っているわけではありません。むしろ、車の保有台数と並行して増加しています。つまり、運動不足が大きく影響していることが推測され、糖質だけを悪者にして本当にいいのかを考える必要があります。高齢者の糖質制限はフレイルやサイコペニアのリスクと背中合わせであり、糖質をしっかり摂らなければならない人もいることを考慮しなければなりません。
私が携わっている緑風荘病院では、エネルギーはあるが血糖値を上げにくいパラチノースを糖類として活用しています。二糖類分解酵素と親和性が強く、分解される速度が遅いので、小腸での吸収が砂糖に比べてゆっくりとなされます。このほかスローカロリーの取り組みとして、低GIの牛乳を和食に取り入れた「乳和食」や、栄養バランスに配慮した「一汁三菜」の食事などを実施しています。
糖質の摂り過ぎは食後高血糖となり糖尿病リスクや認知症の進行につながりますが、反面、摂らな過ぎると低血糖となり腎疾患や心疾患、認知症の進行を招きます。「適切」な種類の糖を「適量」摂る「適糖生活」を、患者さんにすすめています。
患者さんが服用している薬物に合わせた栄養食事指導を
糖尿病の薬物治療にはさまざまな薬が用いられますが、それぞれ作用機序が異なります。栄養食事指導の際に患者さんのカルテを見て、そこに書いてある薬剤の処方からその方の状態をイメージできるようになっていただきたいと思います。
ここでは、代表的な薬剤と、それを処方されている患者さんの栄養食事指導についての注意点をお話します。
SGL2阻害薬は、糖を排泄する新しい薬です。この薬を飲んでいて糖質制限をするとケトアシドーシスを引き起こすの恐れがあり危険です。また、水分も同時に排泄するため水分摂取も重要になります。
スルホニル尿素薬(SU剤)は膵臓に作用してインスリンを出させる薬です。服用するとお腹が空くので食べ過ぎ、肥満しやすくなります。また、昼食前・夕食前や就寝中に低血糖になることがあるため、その予防と対策を徹底する必要があります。
α-グリコシダーゼ阻害剤(α-GI)は、食後の高血糖を改善する薬です。この薬は糖質の吸収を遅らせるため、もともと糖質制限をしている人にはあまり効果が見られません。逆に、糖質の摂取量が多い人には腹部膨満感や放屁などの副作用も強く出るので、患者さんからそういった訴えがなされたら「糖質を摂りすぎると副作用も強まる」ことを伝えると、食事療法に対するモチベーションが高まると考えられます。
チアゾリジン誘導体(TZD)はインスリン抵抗性改善薬です。この薬を服用すると糖とともに水分も吸収してむくみやすくなります。あまりにもむくみが出るようならば医師に相談し、薬の量や種類を調整してもらうことが大切です。また、肥満を助長する傾向があるため、患者さんにその点を伝え、食事療法の大切さを理解してもらうことも重要になります。
インスリンを投与している患者さんの場合、高インスリン血症や肥満の予防が必要です。患者さんが使用しているインスリンの作用時間に合わせた食事や、どのタイミングで補食を行うかといった検討をすることが大切です。

ところで、早朝空腹時高血糖への対応に際しては「ソモジー効果」と「暁現象」を念頭に置いていただきたいと思います。

ソモジー効果は、夜間(午前3時頃)の低血糖に対する反応性の血糖上昇のため、夕食を減らすとさらなる低血糖状態を招きます。これが確認されたらインスリン投与量を減らし、SU剤を使用している場合は短時間型へ切り替え、夕食を増量して就寝前の補食を追加します。また、夕食後の活動も減らしてもらいます。こうした対応を行わないと、夜間に重篤な低血糖を招いて昏睡状態に陥ることもあります。
暁現象は、明け方にかけて生理的に血糖値が上昇するもので、これが見られた場合はインスリン投与量を増加し、SU剤を持続型に、夕食や就寝前補食を減らして夕食後の運動を追加することになります。
このように、早朝空腹時高血糖が認められた場合は、ソモジー効果と暁現象のどちらに当てはまるのかをチェックする必要があります。確認できない場合は、リスクの高いソモジー効果を想定した対応をまず行いましょう。
食事療法は、合併症予防や生活習慣病の根本的な治療につながる
肥満や高血圧など、糖尿病によく見られる症状は、食べ過ぎや運動不足といった生活習慣から現れてくるものです。薬物治療は対症療法で、やめればまた同じ状態になります。根本的な治療は食を含めた生活習慣を改善することだと、栄養士が患者さんに伝えることが大切です。食事療法を行うことで、生活習慣病の根本的な治療もできるほか、薬物治療の効果を十分に発揮させたり、合併症や糖尿病以外の病気を予防したり、といったメリットが得られます。
食事療法は、山登りによく例えられます。患者さん、特に高齢者の中には、こんなに高い山は登れない、自分にはこんな食事療法は無理だと言う方も少なくありません。初めから食事療法という山を見せてしまい、やる気を失わせてしまうことなく「塵も積もれば山となる」というようにその人なりの食事療法という山がいつの間にかできることを管理栄養士が支え続けるようにして欲しいと思います。

ヘルシーフードショー2018 展示会レポート

2018年4月7日(土)、浅草にてヘルシーフードショー2018を開催しました。
ヘルシーフードショーは、2年に1度開催される日本最大規模の病院・施設向け食品の展示会で、今回で9回目を数えます。栄養士をはじめ医療・介護関係者の皆さまと、在宅で食事療法を行う一般のお客様、約2,100名の方にご来場いただきました。当日は東京近郊だけでなく、日本全国から、そして海外からも多くのお客様がお越しになりました。74社の企業の展示は、3フロアに分かれ、工夫を凝らした装飾で商品を展示し、メニューの展示や様々な商品の試食が行われました。企業にとっては、いつも商品を使っていただいているお客様とお話しができる貴重な場です。会場では商品の試食をしてお気に入りの味を探すお客様、商品の特徴や使い方を確認する栄養士の先生、おすすめのレシピや調理のコツを紹介するメーカーさんなど、活発な情報交換が行われていました。
会場2箇所ではセミナーも多数開催されました。聞き応えのあるセミナーに全て無料で参加できるとあって、会場はお客様の熱気であふれていました。長年に渡り、試行錯誤しながら食事療法を成功させた患者さんの経験談、医療の第一線で活躍する専門家の先生の最新情報などは、実際の食事療法にお役立ていただけたのではないでしょうか。そして企業からは、商品をより効果的に使っていただくための方法や様々な情報を紹介していただきました。病気や障害の中でも生活を豊かにするための様々な知恵や便利な商品があります。食事や栄養の重要性を感じる一日になりました。あらためまして当日会場にお集まりいただいた皆さまに厚く御礼申し上げます。
ご来場誠にありがとうございました。