高齢者の水分補給対策
高齢者の水分補給のコツ
人間の体内の水分量は年齢とともに減少し、特に高齢者は食事・水分量が減ることで脱水状態に陥りやすく、重症化すると命にかかわります。脱水症を発症しやすい夏場だけでなく、日頃から適切な水分補給が大切です。

1. 体内の水分とその働き

体重の約60%を占める水分は体液と呼ばれ、栄養素の消化・吸収・運搬・代謝・老廃物の排出および体温調節など生命維持に重要な役割を担っています。体液量は増えすぎても減りすぎても生命維持に悪影響を及ぼすため体液バランスの維持が大切です。

健常時の体液バランス
体重60㎏の成人では1日2,500mlの水分の出入りがあります(図1)。


図1 水分出納(IN/OUTバランス)

※1 代謝水
摂取した栄養素が体内でエネルギーになる際に生成される水。栄養素によって生成量が違い、体重1kgあたり約5ml生成されるため、体重60㎏の成人では60㎏×5ml=300ml/日程度が生成されます。
※2 不感蒸泄(ふかんじょうせつ)
発汗以外の皮膚・呼気からの水分喪失(成人:15ml/kg/日)。体重60㎏の成人では60㎏×15ml=900ml/日程度が不感蒸泄として失われます。

2. 脱水症とは?

体液量が不足した状態を脱水症とよびます。脱水症の重症度は体液量の不足状況から軽度・中等度・重度に分類され、体重減少率で判定することができます(表1)。
体重減少率10%以上になると意識の低下や頻脈など命に関わる重篤な症状が生じ大変危険です。体重減少率2%程度では本人も周囲も気づかないことが多く、知らず知らずのうちに「かくれ脱水」となっているケースがあります。
かくれ脱水は脱水症の前段階であり、「体液喪失を疑わせる自覚症状が認められないにもかかわらず、血清浸透圧値が基準値上限を超えた292~300mOsm/kg・H₂Oの状態」をかくれ脱水と定義しています。


表1 体重減少率と脱水症の重症度分類

3. 体内の水分の割合

体液は「細胞内液」と「細胞外液」に分けられ、細胞外液はさらに「組織間液」と「血漿」に分けられます。
●細胞内液:主な電解質⇒カリウム(K)、リン酸(HPO42−
●細胞外液:主な電解質⇒ナトリウム(Na)、クロール(Cl
※脱水時は「細胞外液」が失われるため、ナトリウムとクロール(塩分)が失われます。

年齢・性別により体内の水分量は異なり、成長と共に体液の割合が変化していきます。
成人の体重の60%に相当する体液は、細胞内液40%・細胞外液20%程度ですが、高齢者では細胞内液30%・細胞外液20%と体液量が減少します(図2・図3)。
また、体液は主に筋肉に存在しています。筋肉には体液保持の役割があり、筋肉量が減ると水分を蓄えにくくなるため、筋肉が減少している高齢者は脱水になりやすくなります。


図2 体内の水分割合


図3 年齢・性別による体内の水分量(%)

4. 高齢者の脱水原因と症状

高齢者では特有の脱水原因があります。

入る水の量の減少
 ・食事量や飲水量の減少により水分や塩分の摂取が少ない。
 ・誤嚥や失禁を恐れて水分摂取を控えがちになっている。
 ・のどの渇きを感じにくくなっているので飲水が少ない。
 ・基礎代謝量の減少により代謝水が減っている。

出る水の量の増加
 ・利尿剤(心不全、高血圧など)により尿量が多くなっている。
 ・腎臓の水分やナトリウムの再吸収能力が低下しており尿量が多い。
 ・熱、多汗、下痢、嘔吐など水分喪失の機会が多い。

水分の貯蔵量の減少
 ・筋肉量が少ないため、体内の水分貯蔵量が少ない。

脱水症を疑う症状には、頭痛、倦怠感、食欲低下、口渇感、体重減少、微熱、尿量の減少、皮膚の乾燥など様々な症状が認められます。
脱水症の確定診断には血清浸透圧値の計測が必要ですが、実際に観察し身体に触れて症状を分析するフィジカルアセスメントにより血清浸透圧や尿比重の計測と異なり機器を用いず脱水症の重症度を判定し治療方針を決めることができます。

5. 高齢者の水分補給の工夫

飲水量の設定 ~体重60㎏、2,000kcal摂取の人の場合~
飲水量=出る水分量-(食事中の水分量+代謝水)=1,200ml
⇒飲水量として1日1,200mlを目標に摂取(図4)。
発汗・発熱・下痢などの場合は、その分少しプラスして摂取しましょう。


図4 飲水量の目安

水分補給の工夫
高齢者はのどの渇きの有無にかかわらず時間を決めて定期的に水分を摂取するなど適切な水分補給と食事をしっかりとることが脱水予防に不可欠です。
生活スタイルや嗜好にあわせ、頻度・提供条件、飲み物の種類や量などを工夫し提供するとよいでしょう。

●起床時、就寝前、夜間に起きた際にも摂取する。
●いつでも飲めるようにベッドサイドに準備しておく。
●服薬時の水量を増やす。
●リハビリ後、運動後、行事後、入浴後には必ず飲むようにする。
●飲んでくれる時間帯に、多めに提供する。
●好みの飲料を提供する。
●負担にならない(飲みきれる)量で提供する。
●飲みやすい形態で提供する(とろみをつける、ゼリータイプにする など)。

6. 水分補給食品の活用

水分は基本的に水やお茶などを摂取し、脱水時は電解質と糖質がバランスよく含まれる経口補水液を摂取しましょう。食欲不振や嚥下機能低下がみられる方には、飲みやすさに配慮した水分補給食品が適しています。
特に嚥下機能が低下している方は症状・嚥下能力によって適する物性が異なるため個々に合わせた飲みやすい形態で、水分・電解質の補給が同時にできる水分補給食品を活用し脱水を予防しましょう。

《物性別のおすすめ水分補給食品》

とろみタイプ
⇒嚥下反射が低下し喉頭の閉鎖が遅れる方。ゼリーだと滑りやすく、咽頭通過が早すぎるため「とろみ」が適しています。
イオンサポート とろみタイプ

ゼリータイプ
⇒送り込みに障害がある方。とろみでは、まとまりが悪く付着性もあり、喉の奥に送り込めないため「ゼリー」が適しています。
イオンサポート フルーツシリーズ
イオンサポート お茶シリーズ
イオンサポート カロリーオフシリーズ
エナチャージ
エナチャージ160

参考文献
●はじめてとりくむ水・電解質の管理 基礎編 水分管理の基礎と経口補水療法
 谷口英喜 著(医歯薬出版株式会社)

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