低栄養とリハビリテーション:医師の立場から
栄養改善しながら
リハビリテーションを行うことで、
活動などがより改善しやすくなります。
横浜市立大学附属市民総合医療センター
リハビリテーション科

若林 秀隆先生
はじめに
リハビリテーションを要する患者には、低栄養やサルコペニアを認めることが多いです。低栄養、サルコペニアとも約50%の患者に認めます。さらに低栄養やサルコペニアを認めると、リハビリテーションを行っても機能や活動の回復が悪く、自宅退院や社会参加が難しくなりやすいです。実際、サルコペニアの摂食嚥下障害は、低栄養やサルコペニアが摂食嚥下障害の原因です。その一方、栄養改善しながらリハビリテーションを行うことで、機能、活動、参加もより改善しやすくなります。そのため、リハビリテーションを要する患者への栄養改善を目指した栄養指導は、極めて重要です。
リハビリテーション栄養とは
リハビリテーション栄養とは、国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health、ICF)による全人的評価と栄養障害・サルコペニア・栄養素摂取の過不足の有無と原因の評価、診断、ゴール設定を行ったうえで、障害者やフレイル高齢者の栄養状態・サルコペニア・栄養素摂取・フレイルを改善し、機能・活動・参加、QOLを最大限高める「リハビリテーションからみた栄養管理」や「栄養からみたリハビリテーション」です。リハビリテーション栄養で最も重要なアウトカムは、体重や検査値の改善ではなく、機能・活動・参加、QOLの改善です。そのため、リハビリテーションを要する患者への栄養指導では、栄養状態だけでなくICFによる評価と視点が、管理栄養士に求められます。
ICFとは人間と環境との相互作用を含めて、人間の健康状態を系統的、全人的に評価するツールです(図1)。心身機能・身体構造、活動、参加といった生活機能と、健康状態、環境因子、個人因子を評価します。リハビリテーションの流れは、①ICFで全人的に評価→②ゴール設定→③リハビリテーションプランの立案・実施→④モニタリング・再評価です。
オランダ栄養士会では、ICF-Dieteticsを開発しました。ICFの心身機能には、b510摂食機能、b515消化機能、b520同化機能、b530体重維持機能、b540全般的代謝機能、b545水分・ミネラル・電解質バランスの機能といった栄養状態の項目が含まれています。しかし、ICFだけでは栄養評価が不十分であるため、ICF-Dieteticsが開発されました。栄養ケアプロセスとICF-Dieteticsには、共通点が多いです。
図1 国際生活機能分類(ICF)

サルコペニアとは
サルコペニアとは進行性、全身性に認める筋肉量減少と筋力低下であり、身体機能障害、生活・人生の質(QOL)低下、死のリスクを伴います。サルコペニアの診断には、筋肉量、筋力、身体機能の評価が必要です。筋力低下(握力:男性26kg未満、女性18kg未満)もしくは身体機能低下(歩行速度0.8m/s以下)を認め、筋肉量減少も認めた場合にサルコペニアと診断します。筋肉量減少のカットオフ値は、四肢骨格筋量(kg)÷身長(m)÷身長(m)で計算した四肢骨格筋指数が、DXA(二重エネルギーX線吸収測定法)で男性7.0kg/m2、女性5.4kg/m2、BIA(生体インピーダンス法)で男性7.0kg/m2、女性5.7kg/m2です。検査機器による骨格筋量評価が困難な場合、日本人の高齢入院患者では、下腿周囲長が男性30cm未満、女性29cm未満を筋肉量減少の目安とします。一方、日本人の地域在宅高齢者では、下腿周囲長が男性34cm未満、女性33cm未満を筋肉量減少の目安とします。
サルコペニアの原因
サルコペニアの原因は、加齢、活動(廃用性筋萎縮)、栄養(エネルギー摂取不足・飢餓)、疾患(急性炎症・侵襲、慢性炎症・悪液質、原疾患)に分類されます(表1)。加齢によるサルコペニアでは、40歳以降で1年に1%程度、筋肉量が検証します。活動によるサルコペニアでは、1日中ベッド上で安静にすごすことで、筋肉量は1日約0.5%減少、筋力は1日0.3~4.2%それぞれ減少します。栄養によるサルコペニアは、エネルギー摂取不足による飢餓で生じます。
侵襲とは、生体の内部環境の恒常性を乱す可能性がある刺激で、手術、外傷、骨折、誤嚥性肺炎などによる急性感染症といった急性の強い炎症で生じます。侵襲では、一時的に代謝が低下する傷害期、代謝が亢進して骨格筋の分解が増加する異化期、炎症が改善して骨格筋や脂肪を合成できる同化期に分類されます。CRP5mg/dl以上を異化期、CRP3mg/dl以下を同化期と判断する目安があります。
悪液質とは、以下のように定義されています。「併存疾患に関連する複雑な代謝症候群で、筋肉の喪失が特徴である。脂肪は喪失することもしないこともある。顕著な臨床的特徴は成人の体重減少(水分管理除く)、小児の成長障害(内分泌疾患除く)である。食思不振、炎症、インスリン抵抗性、筋蛋白崩壊の増加がよく関連している。飢餓、加齢に伴う筋肉喪失、うつ病、吸収障害、甲状腺機能亢進症とは異なる」。がん、慢性心不全、慢性腎不全、慢性呼吸不全、慢性肝不全、慢性感染症、膠原病・自己免疫疾患が、悪液質の主な原因疾患です。悪液質の診断基準を表2に示します。

表1 サルコペニアの原因
表2 悪液質の診断基準

医原性サルコペニア
医原性サルコペニアとは、①病院での不適切な安静や禁食が原因の活動によるサルコペニア、②病院での不適切な栄養管理が原因の栄養によるサルコペニア、③医原性疾患によるサルコペニアです。例えば、誤嚥性肺炎の入院患者では、適切な評価が行われずに、「とりあえず安静、禁食、水電解質輸液のみでの栄養管理」が行われることが少なくありません。その結果、活動と栄養による医原性サルコペニアを入院中に生じて、寝たきりや摂食嚥下障害の原因となります。入院後2日以内に適切な評価を行った上で、可能であれば早期離床、早期経口摂取、早期からの適切な栄養管理を同時に行い、活動と栄養による医原性サルコペニアを予防することが、寝たきりや摂食嚥下障害の予防につながります。
サルコペニアへの対応
サルコペニアへの対応は、原因によって異なり、リハビリテーション栄養の考え方が有用です。加齢が原因の場合、レジスタンストレーニングと分岐鎖アミノ酸を含む栄養剤摂取の併用が最も効果的です。活動が原因の場合、「とりあえず安静」「とりあえず禁食」といった不要な安静臥床や禁食を避けて、適切な評価のうえで早期離床と早期経口摂取を行うことが重要です。
栄養が原因の場合、1日エネルギー必要量=1日エネルギー消費量+エネルギー蓄積量(1日200~1000kcal)とした攻めの栄養管理で体重や筋肉量を増加させることが治療です。理論的にはエネルギーバランスを7000~7500kcalプラスにすれば、1kgの体重増加を期待できます。そのため、1か月に2㎏の体重増加を栄養ゴールに設定した場合、エネルギー蓄積量は1日500kcalになります。減量するときにエネルギー摂取量を少なく設定するように、体重増加を目指すときはエネルギー摂取量を多く設定することが必要です。なお、攻めの栄養管理を実施しているときには、必ずレジスタンストレーニングを併用してください。運動なしに攻めの栄養管理を行うと、筋肉ではなく脂肪で体重が増加します。
疾患が原因の場合、原疾患の治療が最も重要です。侵襲の場合、異化期では栄養状態の悪化防止を目標とします。異化期の1日エネルギー投与量は、筋肉や脂肪の分解によって体内で生じる内因性エネルギーを考慮して、15~30kcal/kg/日を目安とします。異化期でも廃用性筋萎縮を予防するために、階段昇降以外のADLは制限せず、最大筋力の30%程度の筋力トレーニングを実施します。同化期ではエネルギー蓄積量を考慮した攻めの栄養管理とリハビリテーションを行います。
終末期ではない悪液質の場合、栄養療法、運動療法、薬物療法を含めた包括的な対応を行います。現時点では、悪液質を根治させる治療法はありません。しかし、高たんぱく質食(1.5g/kg/日)、n-3脂肪酸(エイコサペンタエン酸)、六君子湯が有効な可能性があります。また、運動による抗炎症作用などを期待して、可能な範囲でレジスタンストレーニングや持久性トレーニングを実施します。

サルコペニアの摂食嚥下障害
サルコペニアの摂食嚥下障害とは、全身と嚥下関連筋の両方にサルコペニアを認めることで生じる摂食嚥下障害です。サルコペニアの摂食嚥下障害の診断には、診断フローチャートを用います(図2)。臨床現場で嚥下関連筋の筋肉量を評価するのは容易ではないため、筋肉量を評価しなくてもProbable diagnosis(可能性が高い)、Possible diagnosis(可能性がある)と診断できるのが特徴です。嚥下関連筋群の筋力低下は、舌圧が20mPa以上か未満かで評価します。ただし舌圧計がなくても、嚥下関連筋群の筋力低下を評価する段階まで行った時点で、サルコペニアの摂食嚥下障害の可能性ありと判断できます。
 サルコペニアの摂食嚥下障害と診断した場合の治療は、サルコペニアの改善と摂食嚥下リハビリテーションの併用です。特に重要なのが、攻めの栄養管理です。サルコペニアの摂食嚥下障害の場合、現体重ではなく理想体重1㎏あたり約35kcal/日で栄養管理を行うと、攻めの栄養管理になります。低栄養やサルコペニアを改善しないで摂食嚥下リハビリテーションだけ行っても、サルコペニアの摂食嚥下障害はあまり改善しません。サルコペニアの摂食嚥下障害の可能性がある場合には、栄養指導で攻めの栄養管理を行ってください。
図2 サルコペニアの摂食嚥下障害診断フローチャート

おわりに
一昔前の栄養とリハビリテーションは、ばらばらに行われていました。現在では、リハビリテーション栄養として一緒に考えて一緒に行うことが当たり前となりました。しかし、リハビリテーションに関心をもち、ICFで生活機能などを評価できる管理栄養士はまだ少ないのが現状です。多くの管理栄養士にリハビリテーション栄養に関心を持ってもらい、体重や検査値だけではなく、機能・活動・参加、QOLの改善を目指した栄養指導をしてください。また、リハビリテーション栄養に関心のある管理栄養士は、ぜひ日本リハビリテーション栄養学会に入会してください( https://sites.google.com/site/jsrhnt/home )。