「生活を続けられる高齢者」を
多職種連携の
在宅医療で支える
在宅医療から見た高齢社会に求められる食の支援 vol.1
医療法人社団 悠翔会
理事長・診療部長
佐々木 淳先生

高齢の患者さんが自宅で生活を続けながら医療を受けるには、医師と看護師はもちろん、歯科医や精神科医、リハビリ職など専門家の力を合わせた“多職種連携”が求められます。中でも管理栄養士は、低栄養状態の改善や摂食嚥下障害の支援を行う重要な役割を担います。在宅医療の課題や今後の活動などについて、首都圏で在宅クリニックを展開する佐々木先生にお話しいただきました。

医師と専門職チームで構成される在宅医療
佐々木先生を中心とするメンバーが在宅医療専門のクリニックを立ち上げたのは2006年。東京都千代田区内に開設し、そこを拠点に23区をカバーするものとしてスタートしました。その後、患者さんが多いエリアを中心に開設を進め、現在は東京23区と千葉・埼玉・神奈川を合わせて11クリニックに広がっています。在宅医は76名に増え、3,500名の患者を診てまわっているそうです。
「私たちのクリニックは24時間体制で在宅の患者さんを見守りつつ、年間800名ほどの患者さんの最期を看取っています」と佐々木先生はお話しされます。
「在宅医療は、基本的に医師と看護師、ドライバーが三人一組でなって患者さんの自宅や老人ホームをまわります。他に専門職チームを拠点に配置して、栄養指導や食事の支援、摂食嚥下支援、在宅緩和ケアなど、医師だけではカバーしきれない状況をサポートしてもらっています」
自宅で医療を受ける人が増えていく
在宅医療を依頼するのは、病院まで通院が困難であったり、自宅で最期を迎えたいと思うお年寄り本人とその家族の方。在宅医療の医師は“自宅を定期的に訪問する主治医”として活動します。
「高度経済成長期の頃までは地域のお医者さんが主治医になり、自宅への往診が盛んに行われ、多くの日本人が自宅で看取られながら最期を迎えました。時代が変わり、地域医療を担っていた主治医は往診をしなくなり、外来だけを受けるようになりました。病院が増えて、今では80%の方が病院で亡くなります。こうした状況の中、私たちのクリニックは地域の主治医に代わって自宅や老人ホームを訪問して診察、治療も行います。自宅まで主治医が来てくれれば、本人も家族も安心です」
超高齢社会へ突き進む日本。在宅医療の必要性は年々増しているそうですが、その背景の一つに、高齢者の救急医療の問題があることを指摘されました。救急搬送と入退院を繰り返しながら、最終的に病院で亡くなる高齢者が増えると、医療資源への負担が増し、医療費の増大につながるというものです。
「それは高齢者にとっても決して幸福な状況ではありません。そもそも救急医療は、若い世代を対象に、病気やけがを完治することが目的です。高齢者は具合が悪くなったら救急病院に行くのではなく、自宅で治療や健康管理を継続的に行うほうが適しています。つまり、高齢者に必要なのは救急医療よりも在宅医療での生活支援なのです」
「高齢者医療を取り巻く状況は決して明るいものではありません。千葉・埼玉・神奈川は2010年から20年間で後期高齢者の絶対数が現在の2倍以上に増えることが分かっています。単純に要介護者も2倍に増えると考えると、現在の病院では対応しきれません。在宅医療も同様です。高齢者が安易に救急病院へ搬送されることを止めるためにも“地域で高齢者を守る”仕組みづくりが急務です」
多職種連携から地域連携へ
地域で高齢者を守る仕組みをつくると言っても、在宅医療をやりたい医師の数が少なければ実現できません。佐々木先生はこの点を憂慮し、改善する体制づくりが必要と話します。
「私の個人的意見ですが、これからの在宅医療は“チーム”で見ていかないといけません。専門職間のチーム連携とともに重要なのは在宅医同士の連携です。何か困ったときに他の在宅医療の医師に相談できるとか、精神科の医師に問い合わせるなどの連携の形が必要です」
「在宅医療を行う医師が増えない大きな理由に、休日・夜間かまわず24時間対応であることが挙げられます。医師の仕事は誰かの生活を支える仕事だから、自分自身がきちん生活できてないといけません。それに、医師が患者さんと丁寧に信頼関係を築いていくには時間が必要です。私たち悠翔会には76名の医師がいるので、常勤の医師が当直はやらないと言えば昼間の勤務だけでも可能です。週末は家族との時間を過ごすことができます」
「とはいえ、今後首都圏のように医師一人当たりの高齢者の患者数が増えると、さらにシステマティックな連携を作らないとなりません。ある主治医が、休日・夜間は対応できないというときに地域全体でサポートする仕組みがあれば、より多くの主治医に在宅医療をやっていただけるのではないかと思い、2011年から私たちの“当直機能”を地域の医師たちに解放することにしました。休日・夜間に先生が休みたければ私たちの当直医がサポートするからどうぞ休んでくださいというものです。つまり私たちは休日・夜間の副主治医となるわけです。こうして私たちは昼間は3,500人の患者さんを診ていますが、夜は6,000名以上の患者をバックアップしていることになっています」
<続く>